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ARTICLE · スモールコンセッション

安城市×デロイトトーマツ:史跡公園内古民家の法的制約とスキーム設計

愛知県安城市の国指定史跡・本證寺境内にある旧神谷家住宅(登録有形文化財)のスモールコンセッション事例を解説。史跡指定地×文化財建物という二重の法的制約の下で、デロイトトーマツが専門家として関与するスキーム設計の構造を分析する。

この記事の要点

  • 安城市は国指定史跡・本證寺境内にある旧神谷家住宅(登録有形文化財・主屋)をスモールコンセッション形成推進事業の対象施設としている
  • 史跡指定地(文化財保護法)×登録有形文化財(同法)という二重の法的制約が、活用の自由度を根本的に制限する高難度案件
  • デロイトトーマツが専門家に選定された理由は、文化財活用と官民連携の交差点における法的・制度的リスク管理能力にある
対象読者・読む前に確認したいこと

こんな方に

  • 文化財指定施設の活用を検討している自治体の文化財課・企画課担当者
  • 史跡・文化財を活用した事業に参入を検討している民間事業者
  • スモールコンセッションの高難度案件に関心のあるPPP/PFIコンサルタント

前提となる知識

  • スモールコンセッションの基本概念([スモールコンセッションとは?](/small-concession-what-is)を参照)
  • スモールコンセッション事例7選([事例集](/small-concession-cases)を参照)
この記事の内容

本證寺と旧神谷家住宅の概要

国指定史跡・本證寺境内の歴史的価値と、登録有形文化財・旧神谷家住宅の建築的特徴

出典を示していない収支試算の単価・金額は、説明用に仮定した数値であり、統計に基づく相場ではない。事業計画を作る際は、対象施設の状態や立地、事業内容に応じた見積もりと実績を用いる。出典を示した統計や事例の金額は、この仮定とは区別して参照する。

本證寺境内の史跡指定

2015年

国指定史跡

旧神谷家住宅主屋の文化財登録

2024年

登録有形文化財

安城市の人口(令和7年国勢調査の速報値、2025年10月1日現在)

186,353人

愛知県安城市に所在する本證寺は、三河一向一揆(1563年)の拠点として知られる真宗大谷派の寺院である。2015年3月10日に「本證寺境内」として国指定史跡に指定され、安城市が管理団体となっている。

事業化の5段階と主な課題。機運醸成、施設選定、事業化検討、事業計画、公募・選定。
事業化の5段階における主な課題と対応事項出典: 国土交通省 総合政策局「スモールコンセッション推進方策案について」(2024年)

この史跡境内に所在するのが旧神谷家住宅主屋。令和6年8月15日に国登録有形文化財(建造物)に登録された。木造平屋一部二階建、建築面積203平方メートル、1920(大正9)年の建築。安城市が建物を取得しており、耐震補強を行った上で一般公開が予定されている。

なぜこの案件が注目されるのか

旧神谷家住宅の活用が通常の公共施設活用と根本的に異なる点は、史跡指定地(土地)と登録有形文化財(建物)という二重の法的制約が存在することにある。この二重制約は、活用の自由度を大幅に限定し、通常のリノベーション・商業活用では対応できない法的論点を生む。


二重の法的制約

史跡指定地における現状変更規制と登録有形文化財の届出制度の法的構造

制約1: 史跡指定地における現状変更規制

本證寺境内は国指定史跡であり、の対象施設はこの史跡指定地内に所在する。文化財保護法第125条により、史跡の現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の許可が必要となる。

具体的には以下の行為が規制対象となる。

行為許可の要否
建物の新築・増築文化庁長官の許可必要
建物の外観変更(屋根・壁・開口部)文化庁長官の許可必要
地面の掘削(配管・基礎工事)文化庁長官の許可必要
樹木の伐採・植栽規模により許可必要
仮設物の設置規模・期間により判断

制約2: 登録有形文化財の届出制度

旧神谷家住宅の主屋は登録有形文化財であり、文化財保護法第64条により、外観の4分の1以上を変更する場合は文化庁長官への届出が必要となる。指定文化財(重要文化財等)と比較すると規制は緩やかだが、「何をしても自由」というわけではない。

二重制約の交差点

史跡指定地の現状変更規制と、登録有形文化財の届出制度が重なることで、以下のような制約が生じる。

  • 建物の改修: 外観を大きく変えることができない(文化財の制約)上に、周辺地面の掘削や配管変更にも許可が必要(史跡の制約)
  • 用途変更: 飲食店への転用を考える場合、排水・換気・厨房設備の設置に伴う建物改修と地面の掘削が史跡・文化財の両方の制約に抵触する可能性がある
  • 事業期間: 許可申請→文化庁協議→許可取得という手続きに数か月〜1年以上かかるケースがあり、通常の事業スケジュールでは対応困難

デロイトトーマツの役割

大手コンサルが選定された理由と文化財案件における専門家の機能

なぜデロイトトーマツが選定されたのか

2025年度のスモールコンセッション形成推進事業において、安城市の案件にはデロイトトーマツが専門家として選定された。

デロイトトーマツが選ばれた理由は、文化財活用と官民連携の交差点における法的・制度的リスク管理能力にある。具体的には以下の3点が考えられる。

①文化財保護法の実務知識: 史跡の現状変更許可申請、登録有形文化財の届出手続きなど、文化財関連法制の実務的な理解とプロセスマネジメント能力。

②PPP/PFIのスキーム設計: 法的制約が多い案件でも成立する事業スキーム(事業期間・収支構造・リスク分担)の設計能力。大手コンサルの得意分野である。

③省庁間調整の経験: 文化庁・国交省・県・市の複数の行政機関が関与する案件では、省庁間の調整経験が不可欠。デロイトトーマツは国レベルの官民連携プロジェクトでの実績を有する。


サウンディング型市場調査

安城市が実施したサウンディングの設計・プロセス・結果

安城市のサウンディング設計

安城市は(仮称)本證寺史跡公園及び史跡内にある古民家(旧神谷家住宅主屋)の利活用に関するサウンディング型市場調査を実施している。

このは、法的制約のある施設に対して民間事業者の参入意欲・活用アイデア・事業成立条件を把握することを目的としている。通常のサウンディングと異なり、「法的にどこまで可能か」という前提条件の共有がサウンディングの冒頭に必要になる点が特徴的である。

サウンディングの設計ポイント

文化財案件のサウンディングでは、以下の情報を事前に事業者に提供する必要がある。

  • 建物の現況調査結果: 構造・耐震性・設備の現状
  • 法的制約の一覧: 史跡の現状変更規制、文化財の届出制度、建築基準法の適用
  • 許可手続きの見通し: 文化庁協議に必要な期間と手順
  • 市の方針: 保全と活用のバランスに関する市の基本的な考え方

事業者にこれらの情報を提示した上で「この制約の中で何ができるか」を聞く設計にしなければ、実効性のある提案は得られない。


文化財×スモールコンセッションの設計パターン

法的制約を前提としたスキーム設計の方法論

安城市事例が示す設計方法論

旧神谷家住宅の事例から、文化財×スモールコンセッションの事業設計において有効なパターンを整理する。

パターン1: 非改修型の活用

建物の改修を最小限に抑え、現状のままで可能な活用を行う。茶室・展示・ギャラリー・会議室など、建物の改修を必要としない用途が候補となる。法的ハードルが最も低い。

パターン2: 可逆的改修による活用

文化財の価値を毀損しない「可逆的な改修」(原状復旧可能な改修)を前提とした活用。仮設的な設備設置、取り外し可能な内装変更などが該当する。文化庁との事前協議が必要だが、許可を得やすい。

パターン3: 周辺地の活用との組み合わせ

建物自体の改修を避け、史跡公園の周辺地(史跡指定の範囲外)に飲食・物販等の収益施設を設置する。建物は「展示・体験の場」、収益は「周辺施設」で確保する棲み分け設計。

→ スモールコンセッション全7自治体の比較分析については、スモールコンセッション事例7選を参照されたい。


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Park-PFI・スモコン・指定管理者制度など7手法の選び方

次にやること

遊休施設の活用を検討する際は、施設の状態と地域の需要、民間事業者の意向を確認する。

順確認・検討すること担当・相談先
1遊休施設の状況と周辺の需要を整理する。建物の状態や立地と、地域で必要とされる用途を照合する財産管理担当
2候補施設の耐震診断とアスベスト調査の結果を確認する。未実施の場合は、調査の範囲と実施方法を検討する営繕担当
3国交省のプラットフォームで情報を集める。会員登録は無料で、先進事例や補助金、専門家派遣の公募案内を受け取れるプラットフォームの公式サイト
4民間事業者の参入意向と必要な条件を聞く。単独での事業化が難しい場合は、近隣自治体との連携も検討するサウンディング、近隣自治体
5民間の意見を踏まえて、運営権、賃貸借、指定管理などの手法を比較する。施設の用途や収支、官民の役割分担に合う手法を選ぶ所管課、財産管理担当

プラットフォームの会員登録は、専門家派遣や補助制度の公募情報を受け取る手段になる。応募を検討する際は、募集要項で対象者、支援内容、期限を確認する。


この記事で使った統計の出典

  1. 1安城市 史跡本證寺境内(2024年) 出典を開く
  2. 2安城市「旧神谷家住宅主屋」(2024) 出典を開く
  3. 3愛知県「令和7年国勢調査結果速報 市町村別人口及び世帯数」(2025年10月1日現在)(2026年5月29日公表) 出典を開く
  4. 4国土交通省 スモールコンセッション形成推進事業(2025年) 出典を開く
  5. 5安城市 サウンディング型市場調査(2025年) 出典を開く

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記事を庁内資料・議会・勉強会・研究で引用するときは、記事名・公共0区(一般社団法人 社会構想デザイン機構)・URLを明記してください。

訂正の内容

  1. :安城市の人口を、出典のない「約19万人」として数字カードに載せていました。

    訂正前
    約19万人(出典なし)
    訂正後
    186,353人(愛知県「令和7年国勢調査結果速報 市町村別人口及び世帯数」2025年10月1日現在)

    理由 速報値と出典を入れました。

  2. :本證寺の説明の出典をWikipediaから安城市のページに変えました。

    訂正前
    本證寺の説明はWikipediaの項目にリンク。旧神谷家住宅の登録もWikipediaが出典
    訂正後
    本證寺は安城市「史跡 本證寺境内」、旧神谷家住宅主屋は安城市「旧神谷家住宅主屋」へ

    理由 登録の日付(令和6年8月15日)は変わっていません。安城市のページに、木造平屋一部二階建・建築面積203平方メートル・1920(大正9)年の建築という記載もあるため、あわせて書き足しました。

この記事の用語

サウンディング型市場調査
公有資産の活用にあたり、公募前に民間事業者の意見・アイデアを聞く対話型の市場調査。事業の実現可能性や条件設定の妥当性を事前に検証する目的で実施される。
スモールコンセッション
地方公共団体が所有する空き家・廃校等の遊休不動産について、民間の創意工夫を活かした小規模(事業費10億円未満程度)なPPP/PFI事業を行う取組み。2024年に国交省がプラットフォームを設立。

ご自身の案件で確認すること

  • あなたの自治体に、史跡・文化財指定を受けた施設で活用の検討対象となりうるものはあるか?
  • 文化財の「保全」と「活用」のバランスをどう設計するか。活用が保全を毀損するリスクはどこにあるか?
  • 大手コンサルの法的リスク管理能力が必要な案件と、地域密着型の専門家で対応できる案件の判断基準は何か?

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