失敗の根本構造
現存7,612校のうち1,951校が未活用。会計検査院が指摘した216校と、本記事が「物件ファースト」と呼ぶ進め方
2004年度から2023年度までに発生した廃校は累計8,850校で、施設が現存している7,612校のうち、活用されていないものが1,951校(25.6%)、そのうち活用の用途が決まっていないものが1,503校ある。一度活用したあとに運営会社が撤退した例もある(パターン2・4の東峰村)。
会計検査院は、国庫補助金を原資として整備され、耐用年数が残り、耐震基準も満たしている廃校等施設を調べ、活用に関する検討期間を考慮しても有効活用されていないものが42都道府県の137設置者の216校にあり、その残存価額は計249億2405万余円、これに対する国庫補助金相当額は計104億7450万余円と指摘した。発生原因として、国庫補助制度を含めた財政支援制度に対する理解や検討が十分でないこと、地域住民の意向を聴取するなどの体制整備が十分でないことなどを挙げ、平成22年9月8日付けで文部科学大臣に改善の処置を要求している。
本記事では、「廃校がある→活用しなければ」という発想から始め、需要・採算・合意形成を確かめる順番を飛ばす進め方を「物件ファースト」と呼ぶ。そこから生まれる失敗を、出典で確かめられる実例とあわせて7つのパターンに整理する。
2004〜2023年度の廃校累計
8,850校
現存7,612校のうち未活用(25.6%)
1,951校
東峰村が旧小石原小学校の改修に公費負担した額
約4億円
運営会社は2024年2月に破産を申請(RKB毎日放送)
耐用年数が残るのに3年以上有効活用されていない廃校等施設
216校
国庫補助金相当額は計104億7450万余円(会計検査院の平成21年度決算検査報告)
7つの失敗パターンの一覧
需要・公募・改修・運営・合意・財産処分・耐震アスベストの7つ
| # | パターン | 構造 | 出典で確かめられる例 |
|---|---|---|---|
| 1 | 需要不在の供給者視点起動 | 需要を確かめずに着手 | 用途が決まらない理由の最多は「地域等からの要望がない」(文科省の実態調査) |
| 2 | 公募設計の硬直(賃料・期間) | 賃料と期間の決め方 | 東峰村「アクアクレタ小石原」、村が約4億円を公費負担、運営会社が破産 |
| 3 | 改修費の過小評価 | 本体以外の改修と法令対応 | 浄化槽と消防設備の改修(日本建築学会の論文)、長岡市の柱と基礎の改修(事例集) |
| 4 | 運営フェーズの収益モデル破綻 | 維持管理費未達・指定管理切れ | 東峰村(利用者は増えていたが資金繰りに窮した) |
| 5 | 住民合意の後回しによる頓挫 | 計画決定後の説明会 | うるま市(住民の理解を得られず断念した提案が多かった) |
| 6 | 財産処分手続き漏れ | 補助金等適正化法第22条 | RC造校舎で処分制限期間が残り、地域再生計画を使った転用事例(日本建築学会の論文) |
| 7 | 耐震・アスベスト後発覚 | 改修工事の前の調査 | 文科省の令和6年9月6日の通知(石綿含有保温材等の調査結果) |
パターン1:需要不在の供給者視点起動
用途が決まらない理由の最多は地域等からの要望がないこと
事業期間や事前に通知する期間の例は、本記事で想定したものであり、制度上の基準ではない。実際の期間は、施設の状態や用途、契約条件、事業者の意向を確認して設定する。
構造
需要を確かめないまま改修や公募に進むと、借り手や利用者が集まらず、維持管理費だけが残る。用途を決める前に、サウンディング(民間事業者との事前対話型市場調査)で借りる事業者がいるかを確かめる。
実例と傍証
用途が決まらない理由を校舎について聞いた複数回答(n=2,177)では、「地域等からの要望がない」が903件(41.5%)、「建物が老朽化している」が902件(41.4%)で上位に並ぶ。会計検査院も、有効活用されていない廃校等施設の発生原因の1つに、地域住民の意向を聴取するなどの体制整備が十分でないことを挙げている(前述)。
防止策
- 着手前にサウンディング型市場調査を実施し、入居を考える事業者と条件を具体的に話してから公募を設計する
- 地域住民の意向を、用途を決める前に聞く
パターン2:公募設計の硬直(賃料・期間)
東峰村の旧小石原小学校で、改修費を村が負担し、運営会社が破産した経過
構造
自治体が廃校を民間事業者に貸し付けるとき、賃料と期間の決め方で事業の続き方が変わる。
- 賃料を高くすると、応募が集まらないことがある
- 賃料を低くすると、維持管理費の自治体の負担が残り、事業が事業者の経営に頼る度合いが高まる
- 期間が短いと、事業者は改修や設備への投資を回収しにくい
実例(報道で確認)
福岡県東峰村「アクアクレタ小石原」(旧小石原小学校)
- 2011年に廃校となった小石原小学校を村が改修し、ホテルやレストラン、ワーキングスペースなどを備えた複合施設として、九州北部豪雨からの復興のシンボルとして2021年4月にオープンした。小石原ダムの水源地域振興整備事業として、東峰村が約4億円を公費負担して校舎をリノベーションした
- 運営会社との賃貸契約は5年間で、3年間は無償提供、2024年4月からの2年間は毎月10万円の賃料を受け取る予定だった
- 2024年2月10日、運営会社の小石原ドットコムがホームページで突然閉館を発表し、東峰村には事前に相談も連絡もなかった。真田秀樹村長は「事前に相談がなかったことについては憤りを持っております」と話した。レストランと清掃のスタッフ数十人に解雇通知書が手渡され、代理人の弁護士から1月と2月分の給料は払えないかもしれないと説明があった
- 東京商工リサーチによると、小石原ドットコムは2月13日に福岡地方裁判所に破産申請を行い、負債総額は約5,000万円にのぼる
報道から分かるのは、改修費を村が負担し、賃料は3年間無償で、閉館を村が事前に知らされなかったことである。契約で経営状況の報告や撤退の予告をどう取り決めていたかは、報道には書かれていない。
防止策
- 事業期間を、改修や設備への投資を回収できる長さにする(本記事の目安は10〜20年)
- 賃料は、維持管理費をどこまで賄うかを決めてから設定する
- 契約に「経営状況の報告義務」「撤退の予告期間(本記事の目安は6〜12か月)」「保証金」の条項を入れる
パターン3:改修費の過小評価
浄化槽と消防設備、建築基準法と消防法への適合、石綿の事前調査
構造
廃校の事業計画で建物本体の改修費だけを見積もると、次の費用が抜けやすい。
- 外構工事(駐車場の整備、アクセス道路の改良)
- インフラの更新(上下水道・浄化槽・ガス・通信回線)
- 用途変更に伴う法令対応(建築確認、消防用設備の設置)
- 石綿含有建材の事前調査と除去
実例と傍証
過疎地域で転用された廃校の事例を調べた論文は、大半の事例で単独処理浄化槽が設置されていたため、転用主体や用途とは関係なく合併処理浄化槽の設置が必要となっていたこと、「学校」は消防設備の基準が比較的緩いのに対して「福祉施設」は非常に厳しく、転用前後の基準に大きな落差があると、より高度な消防設備の設置が求められ、改修費用にも大きな影響を与えることを挙げている。
文部科学省の事例集では、新潟県長岡市の旧島田小学校で、建物の老朽化により変形した柱の修復、地震の影響で下がった基礎の調整、現在の建築基準法や消防法に適合させるための改修等が必要となり、工事にかなりの費用がかかった。沖縄県うるま市の旧浜中学校では、旅館業法上の課題を施設改修時にも意識していたが、最終検査時にいくつか課題が生じ、改めて備品設置等で対応した。
文部科学省の令和6年9月6日の通知は、令和4年4月1日から建築物等の解体・改修工事の元請業者に石綿含有建材の有無の事前調査結果を都道府県及び労働基準監督署等に報告することが、令和5年10月1日以降着工の工事から事前調査を有資格者に行わせることが義務づけられているとして、適切な対応を求めている。廃校を改修する工事でも、この事前調査の費用と期間を見込んでおく。
防止策
- 公募前にアスベスト調査・耐震診断を自治体負担で完了させる
- 調査結果を公募資料として開示する
- 「改修費上限補助」を設定し、事業者が見積りを正確に積算できる環境を整備する
パターン4:運営フェーズの収益モデル破綻
利用者が増えても資金繰りに窮した東峰村の例
構造
改修・開業には成功しても、中長期の収益モデルが成立しないまま経営が行き詰まるパターン。
- 維持管理費(光熱費・修繕費・人件費)を賃料収入で賄えない
- 指定管理の期間の切れ目で更新されず撤退する
- 施設マネージャー・マーケティング担当などの運営人材を確保できない
- 開設当初の補助金・助成金が終了後に事業が自立できない
実例
東峰村アクアクレタ小石原(再掲)
運営会社が村に提出した活動報告書によると、2021年に1,000人程度だった宿泊者数は2023年におよそ1,800人に、レストランの利用者数は2021年のおよそ3,500人から8,000人に増えていた。ただ、期待していた企業の研修や団体旅行の獲得には苦戦していた。運営会社は筑紫野市でコールセンター業務などを行う会社で、代理人の弁護士は「資金繰りに窮し、事業継続が困難となった」と説明した。
利用者の数が増えていても、収入が固定費を上回るとは限らない。公募の段階で、利用者数だけでなく、誰がいくら払う事業なのかを確かめる。
防止策
- 10年間のキャッシュフローの見通しを提案に含めてもらう
- 維持管理費の見込みを、賃料と自治体の負担と並べて示してもらう
- 運営人材の採用・定着計画を事業提案書の必須記載事項にする
- 複数収益源(賃料・イベント収入・物販等)の設計を求める
パターン5:住民合意の後回しによる計画頓挫
学校への思い入れで提案の断念が続いたうるま市の例
構造
廃校後の活用計画を自治体と事業者が先に詰め、計画が固まってから住民に説明すると、住民は決まったことの追認を求められていると受け取りやすい。学校は地域の人にとって思い入れのある場所で、用途の中身より前に、その場所がどう変わるかに反応が出ることがある。
会計検査院も、有効活用されていない廃校等施設の発生原因の1つに、地域住民の意向を聴取するなどの体制整備が十分でないことを挙げている(前述)。一方で、障害者関連施設については、障害者差別解消法の法案に対する衆議院と参議院の附帯決議が、グループホームやケアホーム等を含む障害者関連施設の認可等に際して周辺住民の同意を求めないことを徹底するよう求めている。
実例
沖縄県うるま市の旧浜中学校では、活用方法の検討に当たって複数の事業者から様々な提案が寄せられたが、学校に思い入れのある地域住民の理解を得られず断念したことも多かった。2019年6月にコワーキングスペース等を備えた地域交流拠点施設としての活用実証イベントを約2週間開き、住民への説明会を重ねて、2021年8月に浜自治会を含む共同事業体がコンソーシアムを組織し、管理運営することになった。
学校の統合の段階でも、住民の反発で計画が止まることがある。愛知県愛西市の旧八開村地域では、4小学校2中学校を統合し施設一体型小中一貫校の開設をめざす市の計画に対して、旧村から小学校すら1校もなくなることに地域住民が反発して継続的に運動が続けられ、2020年、コロナ禍になって市の計画がいったん止まった。これは廃校の活用ではなく統合の計画についての例で、状況は論文が書かれた2022年2月号の時点のものである。
防止策
- 「廃校確定」の段階から住民参加の用途検討プロセスを設計し、決める前に加わってもらう
- 学校の記憶を残す場(記念室や地域に開く日など)を活用計画に入れるかを、住民と話し合う
- 公募の前は自治体が方針を説明して住民の思いを聞き、事業者が決まったら事業者が中身を説明する
詳細は 廃校の福祉施設転用と住民説明会:NIMBY問題への対処法 を参照。
パターン6:財産処分手続き漏れによる国庫補助金返還リスク
補助金等適正化法第22条と、報告で済む場合
構造
公立学校施設整備費補助金等を受けて整備した学校施設を処分制限期間内に学校教育以外の用途で活用する場合には、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律に基づき、当該施設を所管する地方公共団体は、文部科学大臣の承認を受けた上で、国庫補助相当額を国庫に納付する手続(財産処分手続)が必要となる。同法第22条は、補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならないと定めている。
文部科学省の通知では、国庫補助事業完了後10年以上経過した建物等の無償による財産処分は、報告書を文部科学大臣に提出すれば承認があったものとみなされ、国庫納付も要さない。10年以上経過した建物等の有償による財産処分でも、国庫に納付することとなる補助金相当額以上の額を学校の施設整備のための基金に積み立てるものは国庫納付を要さない。地域再生計画の認定を受けたものは承認を受けたものとみなされる。廃校施設等を、改変を行わない一時的な転用又は貸与で公益に資する用に供する場合は、財産処分に該当せず手続は不要である。
実例
過疎地域の転用事例を調べた論文では、木造校舎の転用事例は処分制限期間が短いことから補助金返還の問題が発生しなかったが、RC造校舎の転用事例では60年の処分制限期間を経過していないものが大半で、転用主体・転用用途が条件を満たさない場合には地域再生計画を活用する等、補助金返還の問題をクリアするために様々な工夫が行われていた。論文は、近年は財産処分手続きが大幅に簡素化されたとも書いている。
防止策
- 廃校確定の時点で、文部科学省の財産処分手続のページにある通知と「財産処分手続ハンドブック」で、処分制限期間と国庫納付の要否を判定する
- 国庫補助事業完了後10年以上経過した建物等を無償で処分する場合は、報告書の提出で済む
- 担当者が変わっても引き継がれるよう、廃校管理台帳に「補助事業完了年度・処分制限期間満了年度・財産処分手続き要否」を記録する
パターン7:耐震・アスベスト問題の後発覚
石綿の調査結果の通知と、PCBが使われた可能性のある機器
構造
廃校活用の計画を立案・公募・事業者決定まで進めた後に、以下が判明して計画が崩壊するパターン。
- 耐震不足の後発覚。旧耐震基準の校舎で耐震補強が済んでおらず、補強の工事費が事業者の想定を超えて採算が成立しなくなる
- 石綿含有建材の後判明。改修工事に入ってから吹付けアスベストや含有建材が見つかり、除去の費用と期間が加わる
- PCBが使われた可能性のある電気機器。昭和28年(1953年)から昭和47年(1972年)に国内で製造された変圧器・コンデンサーには絶縁油にPCBが使用されたものがあり、国内メーカーが平成2年(1990年)頃までに製造した電気機器にはPCB汚染の可能性がある。昭和52年(1977年)3月までに建築・改修された建物では、PCBが使われた古い安定器が使われていないかの確認が求められている。PCB廃棄物は「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」に基づいて処分する
実例と傍証
文部科学省の令和6年9月6日の通知は、令和5年10月1日時点の学校施設等における石綿含有保温材等の使用状況調査の結果を示し、使用状況調査が未完了の機関には早期に調査を完了すること、劣化や損傷等がある保温材等を保有する機関には直ちに応急処置を講じ、速やかに除去や囲い込み等の処置を講じることを求めている。廃校を活用する場合も、公募の前に同じ建材の有無を確かめる。
防止策
- 公募前に自治体負担でアスベスト調査・耐震診断・PCBが使われた可能性のある機器の確認を完了させ、結果を開示した上で公募する
- 想定する改修費概算を自治体が提示することで、事業者が現実的な資金計画を立てられる
- 後から分かると事業者の資金計画が崩れるので、調査の結果は公募資料に入れる
自己診断チェックリスト(公募前に7パターンを点検する21項目)
公募前に7パターンを点検する21項目
21項目のうち1つでも「いいえ」がある場合、該当パターンの失敗リスクが残っている可能性がある。公募開始前に補完しておくことを推奨する。
まとめ
本記事の7つのパターンの多くは、公募の前に確かめられることを飛ばしたところから生まれる(サウンディング・住民の意向の聴取・アスベスト調査・耐震診断・財産処分手続きの確認)。会計検査院が216校について挙げた発生原因にも、財政支援制度の検討と地域住民の意向の聴取が入っている。
東峰村「アクアクレタ小石原」では、村が約4億円を公費負担して改修し、宿泊者数とレストランの利用者数は増えていたが、運営会社は資金繰りに窮して破産を申請した。賃料と期間、経営状況の報告、利用者数と収入の関係を、公募の段階で確かめておく。
公募の前に21項目を点検し、「いいえ」の項目を埋めてから進む。 廃校活用の進め方 に載せた国の資料と、本記事のチェックリストを併用してほしい。
個別事例の詳細は 廃校活用事例47選 、Park-PFI等のPPP型活用との失敗パターン比較は Park-PFI事業が頓挫する5つのパターン を参照。
次にやること
廃校の活用方針と改修予算を検討する際は、次の事項を確認する。
| 順 | 確認・検討すること | 担当・相談先 |
|---|---|---|
| 1 | 活用に関心のある事業者を探す。希望する用途や必要な条件を聞き、活用方針の検討に反映する | サウンディング、地元事業者 |
| 2 | 耐震診断とアスベスト調査の結果を確認する。未実施の場合は、調査の範囲と実施方法を検討する | 営繕担当 |
| 3 | 調査結果に基づいて改修費を見積もり、解体する場合の費用と比較する | 設計事務所 |
| 4 | 財産処分に必要な手続きを確認する。国庫補助を受けた校舎は、活用方法と処分制限期間に応じて、文科省の承認申請または報告の要件を確認する | 教育委員会、文科省 |
| 5 | 用途を公表する前に、卒業生や地域団体に活用方針を説明し、意見を聞く | 同窓会、自治会 |
用途を確定する前に事業者の関心と必要な条件を確認し、借り手の見込みを踏まえて活用方針を検討する。