廃校改修費vs新築費の比較
北海道夕張市で新築の1/3程度で済んだ例の条件と、耐震性の確かめ方
費目別の単価と補助制度の試算額は、説明用に仮定した数値である。公表された統計ではない。施設の状態・地域・業態で大きく変わるので、自分の案件では見積書と近隣の実績に置き換えて使う。出典を付けた事例の金額は、それぞれの資料にある数字である。
北海道夕張市の例で、旧校舎から転用した部分の契約金額を、建設物価調査会の記事が新築工事の平均的な費用と比べた割合(建設物価2018年10月号)
1/3程度
文部科学省の事例集(令和5年3月)に載る47事例の改修費用
0円〜約29.3億円
廃校活用を検討するとき、最初に出る疑問が「改修費はどのくらいかかるのか」だ。新築より安く済んだ例はあるが、どこまで安くなるかは建物の状態と工事の範囲で変わる。
新築の1/3程度で済んだ例
北海道夕張市の旧のぞみ小学校(1986年竣工、2011年閉校)を養護老人ホーム「夕張紅葉園」にした例では、調査の結果、構造躯体・外壁・屋根など主要部分は十分使える状態で、軽微な改修で済んだ。旧校舎から転用した部分(延べ面積2,145.20㎡、増築部分を除く)の最終的な契約金額は1億5,853万円、㎡単価は73,900円で、記事は新築工事で建てた場合の平均的な費用の1/3程度で済んだと書いている。工期が9か月で済んだこともコストの低減に寄与したとしている。
1/3程度という比は、主要部分に大きな工事が要らなかったこの建物の数字である。ほかの廃校にそのまま当てはめられるものではない。
なぜ新築より安くなることがあるのか
新築では基礎・躯体から建てる。改修では、既存の基礎・躯体・屋根が使える状態なら、その分の工事が要らない。
| コスト区分 | 新築 | 廃校改修 |
|---|---|---|
| 基礎・躯体 | 発生 | 使える状態なら不要か軽微 |
| 屋根・外壁 | 発生 | 状態により一部のみ |
| 内装仕上げ | 発生 | 発生 |
| 電気・給排水設備 | 発生 | 発生(更新が必要なことも) |
| 空調設備 | 発生 | 発生(更新が必要なことも) |
躯体や基礎が傷んでいれば、改修の費用は上がる。新潟県長岡市の旧島田小学校を障害者就労支援施設にした例では、建物の老朽化で変形した柱の修復、地震の影響で下がった基礎の調整、いまの建築基準法や消防法に適合させるための改修等が必要になり、工事にかなりの費用がかかった。改修費用は総額約2億3,500万円である。
前提条件:耐震性能の確認
改修費を見積もる前に、耐震性を確かめる。国土交通省は、昭和56年以前に建築された建物は、耐震基準が強化される前のいわゆる「旧耐震基準」で建てられ耐震性が不十分なものが多いとして、まず耐震診断をし、耐震性が不十分なら耐震改修や建替えを検討するよう呼びかけている。耐震診断が法律で義務づけられているのは、旧耐震基準で新築した大規模な建築物などで、小学校・中学校は階数2以上かつ床面積の合計3,000㎡以上が対象である。住宅や小規模建築物等は、耐震診断と必要に応じた耐震改修の努力義務である。現行の耐震基準は昭和56年6月に導入された。
建築年だけでは決まらないので、耐震診断をしたか、結果はどうだったかを自治体に聞く。岩手県西和賀町の旧越中畑小学校(建築年度1980年度)は、活用する前から建物の耐震基準をクリアしていて補助金も使えたので、借入金だけで開業経費を賄えたと事例集にある。夕張市の校舎の竣工は1986年で、現行の耐震基準の導入より後である。
費目別の内訳と単価水準
費目ごとの単価の前提と、消防用設備・バリアフリーの設置の条件
廃校の改修費は、以下の費目で構成される。表の単価と金額は、試算のために仮定した数値である(冒頭の注記)。消防用設備とバリアフリーの設置の条件は、条文に書いてあることを載せた。
1. 構造・耐震工事
| 条件 | 工事内容 | ㎡単価の目安 |
|---|---|---|
| 耐震診断で耐震性が足りている | 耐震補強は無し | 0円 |
| 耐震診断で耐震性が足りない | 耐震補強工事 | 2〜5万円 |
| 外壁の劣化が著しい | 外壁補修・防水工事 | 1〜3万円 |
2. 屋根・外壁
| 工事内容 | 単価目安 |
|---|---|
| 屋根防水補修 | 5,000〜15,000円/㎡ |
| 屋根全面葺き替え | 15,000〜25,000円/㎡ |
| 外壁塗装補修 | 3,000〜8,000円/㎡ |
| 外壁貼り替え | 10,000〜20,000円/㎡ |
3. 内装仕上げ
教室や廊下を別の用途に使うときは、床・壁・天井の改修と、部屋を分ける間仕切りが要ることがある。
| 工事内容 | 単価目安 |
|---|---|
| 床張り替え(フローリング) | 8,000〜15,000円/㎡ |
| 床張り替え(タイル・クッションフロア) | 5,000〜10,000円/㎡ |
| 壁クロス貼り替え | 1,500〜3,000円/㎡ |
| 天井補修・貼り替え | 3,000〜6,000円/㎡ |
| 間仕切り新設 | 10万〜20万円/箇所 |
4. 電気・給排水設備
電気・給排水設備は、建物の年数と閉校後の管理の状態で、更新の範囲が変わる。福祉や飲食の用途に変えるときは、給排水管の状態と電気の容量を先に確かめる。
| 設備区分 | 更新工事の目安費用 |
|---|---|
| 電気設備全般(盤・配線) | 500万〜2,000万円 |
| 給排水設備(管更新) | 300万〜1,500万円 |
| 衛生設備(便器・洗面台更新) | 200万〜500万円 |
5. 空調設備
教室を個室や作業室に分けると、部屋ごとに空調が要ることがある。福祉施設では、部屋ごとに温度を調節できるかを確かめる。
| 空調工事の内容 | 目安費用 |
|---|---|
| 個室・教室への分割空調新設 | 30万〜80万円/室 |
| 既存空調の更新 | 200万〜800万円(規模による) |
6. バリアフリー工事
用途を変えて、老人ホーム・福祉ホームなど(主として高齢者、障害者等が利用するもの)や、老人福祉センター・児童厚生施設・身体障害者福祉センターなどにするときは、用途を変える部分の床面積の合計が2,000㎡以上なら、建築物移動等円滑化基準に適合させる義務がある(バリアフリー法第14条第1項、施行令第5条・第9条)。自治体は、条例で対象の建築物を加えたり、この面積を小さくしたりできる(法第14条第3項)。義務の対象にならない規模でも、特別特定建築物なら基準に適合させる努力義務がある(法第14条第5項)。どこまで工事が要るかは、自治体の条例とあわせて確かめる。
| バリアフリー工事の内容 | 目安費用 |
|---|---|
| スロープ設置 | 50万〜200万円(規模・勾配による) |
| 段差解消(廊下・出入口) | 10万〜30万円/箇所 |
| 車椅子対応トイレ新設 | 100万〜250万円/箇所 |
| 手すり設置(廊下・階段) | 3万〜8万円/m |
| エレベーター設置(2階建て以上) | 1,000万〜2,000万円 |
7. 消防用設備
用途を変えると、学校のときには要らなかった消防用設備が要ることがある。建設物価調査会の記事は、消防法では学校は特定の者だけが使うので規制が少ないが、不特定多数の者が利用する施設に変える場合は避難誘導灯の増設や排煙窓の設置等の義務が生じると書いている。
設備が要るかは、消防法施行令の別表第一の用途の区分と、面積・階・収容人員で決まる。学校は(七)項である。放課後等デイサービスは(六)項ハ(4)、生活介護・就労移行支援・就労継続支援は(六)項ハ(5)に入る。養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、避難が困難な要介護者を主として宿泊させる小規模多機能型居宅介護の施設は、(六)項ロ(1)である。
| 消防用設備 | 設置が要る主な条件(消防法施行令) | 目安費用 |
|---|---|---|
| 自動火災報知設備 | (六)項ロと、(六)項ハのうち利用者を入居・宿泊させるものは面積にかかわらず。(六)項ハのその他は延べ面積300㎡以上。学校((七)項)は延べ面積500㎡以上(第21条) | 100万〜400万円 |
| スプリンクラー設備 | (六)項ロ(1)(3)は面積にかかわらず、ロ(2)(4)(5)は延べ面積275㎡以上(介助がなければ避難できない者を主として入所させるものは面積にかかわらず)。いずれも延焼を抑制する構造として総務省令で定めるものを除く。(六)項ハは、平屋建以外で床面積の合計6,000㎡以上か、地階・無窓階で床面積1,000㎡以上、4階以上10階以下で床面積1,500㎡以上の階など(第12条) | 300万〜1,500万円 |
| 誘導灯・避難器具 | 避難口誘導灯・通路誘導灯は、(六)項なら建物全体、学校((七)項)なら地階・無窓階・11階以上の部分(第26条)。避難器具は、(六)項の2階以上の階か地階で、収容人員20人以上(第25条) | 50万〜200万円 |
校舎の一部だけを別の用途に使うと、建物は複合用途の防火対象物(別表第一(十六)項)になることがあり、条件の読み方が変わる。どの設備が要るかは、設計の前に所轄の消防署に確かめる。
事例集に載っている改修費
文部科学省の事例集47事例の改修費用の幅と、福祉・子育て・医療の7事例
使う面積が近くても、改修費は用途と工事の範囲で大きく変わる。文部科学省の事例集には47事例の改修費用が載っていて、0円(埼玉県小鹿野町、映画・テレビ・CM撮影等のロケ地)から総額約29.3億円(大阪府堺市、大学)まで開いている。施設の規模が2,000㎡前後の例でも、山梨県身延町のドローン開発・研究等施設(1,996㎡)は総額約100万円、北海道小清水町のせんべい工場(2,170㎡)は総額約4.5億円である。
福祉・子育て・医療の用途の7事例は次のとおりである。施設の規模と改修費用は、事例集の「施設の基本情報」の記載のまま載せた。
| 自治体・旧校名 | 活用用途 | 施設の規模 | 改修費用 | 内訳(事例集の記載のまま) |
|---|---|---|---|---|
| 長崎県西海市・旧松島小学校 | 放課後児童クラブ | 166㎡ | 総額約814万円 | 自治体負担 約814万円、事業者負担 約1,000円 |
| 岩手県西和賀町・旧越中畑小学校 | 小規模多機能ホーム(老人福祉施設) | 489.78㎡ | 総額約4,150万円 | 事業者負担 約850万円、補助金 約3,300万円 |
| 鹿児島県南さつま市・旧笠沙小学校 | 市役所出張所・診療所等の複合施設 | 699.27㎡ | 総額約2億3,100万円 | 自治体負担 約1.8億円、補助金 約5,100万円 |
| 福島県三春町・旧沢石小学校 | 福祉型農業施設(障害者福祉施設) | 1,344.52㎡ | 総額約400万円 | 補助金なし |
| 広島県三原市・旧久井南小学校 | 認定こども園 | 1,570.92㎡ | 総額約3億2,300万円 | 自治体負担 約3億1,800万円、補助金 約500万円 |
| 新潟県長岡市・旧島田小学校 | 障害福祉サービス事業所 | 2,973.68㎡ | 総額約2億3,500万円 | 事業者負担 約1.8億円、補助金 約5,500万円 |
| 三重県四日市市・旧東橋北小学校 | 子育て支援等複合施設 | 約6,315㎡ | 総額約10億円 | 自治体負担 約9.9億円、補助金 約1,000万円 |
同じ障害福祉の用途でも、福島県三春町の福祉型農業施設(1,344.52㎡)は総額約400万円、新潟県長岡市の障害福祉サービス事業所(2,973.68㎡)は総額約2億3,500万円である。三春町の例では、建築基準法や消防法を主に所管する部署とも協議し、学校からの用途変更に伴って必要な改修工事等を事前に事業者に伝えて、事業者が改修費用等のイメージをつかみやすいようにしたと事例集にある。
似た例を探すときは、事例集の各事例の「施設の基本情報」で、建築年度・改修費用・活用した補助金を並べて見る。
コスト削減の5つのポイント
建物診断・段階的改修・用途設定・既存設備の活用・補助金の日程
事前の建物診断で改修が要る箇所をつかむ
着工前に建物診断(簡易調査)をして、建築年・屋根・外壁・基礎・設備の状態と、耐震診断の結果を確かめる。改修工事の前には、石綿(アスベスト)の事前調査も要る。改修費の見積もりは、これらの結果が出てから固める。
段階的改修で初期投資を抑える
全施設を一度に改修するのではなく、最初に使用する区画のみを先行改修することで初期投資を抑えることができる。教室2〜3室と共用部のみを先行改修して事業を始め、事業が安定してから残りの区画を順次改修していくやり方である。
用途設定で必要な改修範囲を最小化する
改修が少なくて済む用途を選べば、費用は下がる。消防用設備やバリアフリーの条件は用途と面積で変わるので、候補の用途ごとに条件を当てはめて比べる。ただし、費用だけで用途を決めると、借り手や利用者がつかないことがある。
既存設備・備品の活用
廃校には厨房設備・体育館の床・黒板・図書棚等が残っていることがある。改修計画の段階で残っている物品を一覧にし、使えるかを確かめる。
補助金の日程を工事の日程に合わせる
補助金を使うなら、使う制度の要綱で、交付の決定の前に着手した工事が対象になるかを確かめる。募集の時期と採択の時期から逆算して、工事の日程を決める。
補助金との組み合わせ試算
社会福祉法人等が整備する場合と、市町村が改修する場合の負担の試算
社会福祉法人等が障害福祉サービス事業所を整備する場合
社会福祉施設整備補助金の対象施設には、障害者総合支援法第5条に基づく障害福祉サービス事業所等が入る。国は、社会福祉法人等が施設を整備する場合、原則として整備費の2分の1を補助し、都道府県(指定都市・中核市を含む)は施設設置者に整備費の4分の1を補助する。社会福祉法人等の負担は4分の1。
前提(試算に用いた仮定の数値)
- 使用面積: 700㎡
- 改修費合計: 5,000万円
- 用途: 就労継続支援B型(障害福祉サービス事業所)
- 改修費の全額が補助の対象になり、採択されたとする
| 負担する者 | 金額 | 割合 |
|---|---|---|
| 国(社会福祉施設等施設整備費補助金) | 2,500万円 | 1/2 |
| 都道府県(指定都市・中核市を含む) | 1,250万円 | 1/4 |
| 社会福祉法人等(事業者) | 1,250万円 | 1/4 |
この1/4は、改修費の全額が補助の対象になった場合の数字である。事例集の新潟県長岡市の例では、改修費用の総額約2億3,500万円のうち、社会福祉施設等施設整備費補助金(厚生労働省)による補助金は約5,500万円で、事業者負担は約1.8億円だった。補助の対象になる費用と採択されるかは、その年度の要綱と、都道府県(指定都市・中核市を含む)の窓口で確かめる。
同じ費用に別の国の補助を重ねられるかは、制度ごとに決まっている。組み合わせるなら、費用を施設や費目で分け、それぞれの要綱の対象経費に当てはまるかを確かめる。
市町村が改修して、民間の事業者が使う場合
教育や地域交流の施設(フリースクールとコミュニティスペース等)を、市町村が改修して事業者に貸す形を考える。
地域未来交付金の地域未来推進型は、地方公共団体の地域独自の取組を幅広く支援する。対象はソフト事業と拠点整備事業で、補助率は1/2である。交付を受けようとする地方公共団体は、交付金を充てて行う事業を記載した地域再生計画を作り、認定を申請する。拠点整備事業は、ソフト事業を行うのに必要な施設を整備する事業である。
前提(試算に用いた仮定の数値)
- 使用面積: 400㎡
- 改修費合計: 1,500万円
- 市町村が、地域再生計画に書いた拠点整備事業として改修し、交付が決まったとする
| 負担する者 | 金額 | 割合 |
|---|---|---|
| 国(地域未来交付金) | 750万円 | 1/2 |
| 市町村 | 750万円 | 1/2 |
交付金を受けるのは市町村で、民間の事業者には入らない。事業者の負担は、市町村と決める賃料などの使用の条件で決まる。
過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法に基づく施策として、過疎対策事業債は元利償還の7割を交付税で措置する。過疎地域の市町村なら、市町村が負担する部分に過疎対策事業債が使えるかを、過疎地域持続的発展市町村計画と起債の手続きで確かめる。
補助金の詳細については「廃校活用で使える補助金6省庁分まとめ」を参照されたい。放課後等デイサービスへの廃校活用については「放課後等デイサービス×廃校」で詳しく解説している。
廃校活用の補助金6省庁まとめ
文部科学省の令和8年4月現在の一覧と各省の要綱で確かめた、廃校活用に使える国の補助制度。補助の割合・上限・申請できる団体と、組み合わせるときの注意点。
廃校×福祉施設の収支モデル
就労継続支援B型を例に、令和8年6月からの基本報酬の区分、工賃の決まり、施設費の差の出し方、3つの事例を載せた。
次にやること
廃校の活用方針と改修予算を検討する際は、次の事項を確認する。
| 順 | 確認・検討すること | 担当・相談先 |
|---|---|---|
| 1 | 活用に関心のある事業者を探す。希望する用途や必要な条件を聞き、活用方針の検討に反映する | サウンディング、地元事業者 |
| 2 | 耐震診断とアスベスト調査の結果を確認する。未実施の場合は、調査の範囲と実施方法を検討する | 営繕担当 |
| 3 | 調査結果に基づいて改修費を見積もり、解体する場合の費用と比較する | 設計事務所 |
| 4 | 財産処分に必要な手続きを確認する。国庫補助を受けた校舎は、活用方法と処分制限期間に応じて、文科省の承認申請または報告の要件を確認する | 教育委員会、文科省 |
| 5 | 用途を公表する前に、卒業生や地域団体に活用方針を説明し、意見を聞く | 同窓会、自治会 |
用途を確定する前に事業者の関心と必要な条件を確認し、借り手の見込みを踏まえて活用方針を検討する。