本文へスキップ
公共資産活用の専門メディア

サイト全体のメニュー

PUBLIC AS A COMMON GOOD

公共資産の活用を、
まずは、考えるところから。

運営:一般社団法人 社会構想デザイン機構(ISVD)関連メディア:構想0区プライバシーポリシーRead in English

ARTICLE · 公共施設マネジメント

万博後のウォーターPPP:大阪で同時進行した「2つの全国初」と広域統合、自治体が2027年までに迫られる判断

2025年の大阪・関西万博と同じ時期に、大阪市の水道基幹管路の更新PFI(525億円、受注企業が全国初と発表)と、大阪狭山市・河内長野市の広域型レベル3.5共同発注(2市が日本初と説明)が動き、大阪広域水道企業団への統合は19市町村になった。令和9年度以降、汚水管の改築の国費支援はウォーターPPP導入の決定が要件になる。2市が公募までにかけた約3年と、判断の7軸を整理する。

この記事の要点

  • 万博と同じ時期に、大阪府域で水道管路の更新PFI、下水道のレベル3.5共同発注、水道の広域統合が動いた。前の2つは、受注した企業や発注した2市が「全国初」「日本初」と説明している
  • 汚水管の改築に係る国費支援は、令和9年度(2027年度)以降、ウォーターPPP導入を決定済みであることが要件になる。レベル3.5では募集要項等の公表で決定済みとなり、ガイドラインは公表までに2〜3年程度かかるとしている
  • 大阪狭山市と河内長野市は、10年以上の包括的民間委託を経て令和5年度に連携の協議を始め、約3年で公募した。浜松市(レベル4、2018年〜)や宮城県(レベル4、2022年〜)とは別の経路である
対象読者・読む前に確認したいこと
  • 上下水道担当の自治体職員: 令和9年度(2027年度)からの交付要件を控え、自団体でウォーターPPP導入の意思決定を進める立場の人
  • 大阪府域・近畿圏の企画担当者: 大阪府域の事例を踏まえて自団体の方向性を検討したい人
  • 民間事業者・コンサルタント: ウォーターPPP関連の参入検討にあたり、制度と先行事例を確認したい人
  • 既存記事 ウォーターPPP完全解説:令和9年度の交付要件とレベル3.5への自治体準備ガイド と併せ読むと、制度の全体像と地域事例の両面を押さえられる

前提となる知識

  • ウォーターPPPの基本概念(レベル区分・コンセッション等)を理解していること
この記事の内容

エグゼクティブサマリー

2025年4月13日〜10月13日の大阪・関西万博と同じ時期に、大阪府域では水道と下水道の官民連携が続けて動いた。水道では、大阪市が基幹管路の更新をPFIで発注し、受注した企業は「全国初導入」と発表した。下水道では、大阪狭山市と河内長野市が共同で公募し、2市は「日本初の広域型ウォーターPPPレベル3.5公募」と説明している。水道事業の広域統合も、5市が加わって19市町村になった。

ウォーターPPPのレベルと令和9年度の交付要件。レベル1〜3は民間委託、レベル3.5と4がウォーターPPP。
取り組みやすいのは3.5。だが交付要件を満たすのは4のほうが早い出典: 国土交通省 水管理・国土保全局「下水道分野におけるウォーターPPP ガイドライン第2.0版」(2025年4月)

国は、汚水管の改築に係る国費支援に関して、緊急輸送道路等の下に埋設されている汚水管の耐震化を除き、ウォーターPPP導入を決定済みであることを令和9年度以降の要件にするレベル3.5で「決定済み」になるのは、実施方針の公表ではなく、入札・公募の開始(募集要項等の公表)の時点であるガイドラインは、レベル3.5の入札・公募資料等の公表までに2〜3年程度の期間が必要と考えられるとしている

本記事では、大阪の3つの動きの中身、レベル3.5とレベル4の違い、交付要件の実務上の意味、先行するコンセッション事例(浜松・宮城)との比較、再公営化の事例の読み方、そして自治体担当者が判断すべき7軸を整理する。

万博と同時期に動いた2つの全国初と広域統合

水道の管路PFIと下水道の広域型レベル3.5という2つの全国初と、並行した府域の広域統合を、発注者の資料から整理

大阪市水道基幹管路耐震化PFI事業の事業費(税込)

525億円

契約金額は525億5,321万6,100円

同じ事業で更新する基幹管路

38 km

約100路線

同じ事業のVFM

7.19%

当初の大阪市の想定は3.82%

大阪広域水道企業団に水道事業を統合した市町村

19市町村

2025年4月の5市を加えた数

全国初その1: 大阪市水道基幹管路耐震化PFI事業(2024年4月開始)

大阪市は、南海トラフ巨大地震などの大規模地震のときに広域断水を避けるため、基幹管路約38km(約100路線)の更新を、計画から設計、施工、施工監理、運営までPFIで一括して発注した

項目内容
事業期間令和6年度〜令和13年度(8年間)
事業費(契約金額)525億5,321万6,100円(税込)
対象配水本管と送水管、約38km(約100路線)
VFM7.19%(39.43億円)。当初の大阪市の想定は3.82%
事業者株式会社大林組を代表企業とするグループが設立した特別目的会社「ウォーターパートナー大阪管路株式会社」
前倒し完了予定は令和13年度末。従来の発注手法なら令和18年度末で、大規模地震対策が5年程度前倒しになる

「全国初」と発表したのは、受注した企業である。クボタは「老朽化した水道基幹管路の更新事業におけるPFI方式の導入は全国初」と発表し、構成企業を株式会社大林組(代表企業)、株式会社クボタ、東急建設株式会社、株式会社栗本鐵工所、株式会社オクムラ道路、株式会社日水コン、ヴェオリア・ジェネッツ株式会社の7社としている栗本鐵工所の発表も、見出しに「水道基幹管路の更新に、PFI方式を全国初導入」と書く。大阪市水道局の概要ページと概要資料には「全国初」の記載は無い。

全国初その2: 大阪狭山市と河内長野市の広域型レベル3.5共同発注(2026年4月開始)

2市は「日本初の広域型ウォーターPPPレベル3.5公募を令和7年度に実施した」と説明している。2市の人口は大阪狭山市5.7万人、河内長野市9.7万人(令和7年3月時点)で、下水道施設の規模や財政規模が同等の隣接都市である

項目内容
業務名大阪狭山市公共下水道施設包括的維持管理業務(第3期)及び河内長野市下水道施設包括的管理業務
方式広域型ウォーターPPPレベル3.5(更新実施型)。協定書に基づき2市が共同で事業者を選び、契約はそれぞれの市が結ぶ
対象2市全域の下水道施設(管路、ポンプ場、マンホールポンプ。処理場は河内長野市のみ)
業務範囲維持管理のすべてに、統括管理、計画策定、改築・更新、設計を加える
発注金額約2,016百万円(税抜き、3条予算のみが対象)。大阪狭山市が約654百万円、河内長野市が約1,362百万円
公募令和7年9月
事業期間令和8年4月1日〜令和18年3月31日(10年間)

受託したのは、藤野興業株式会社を代表企業とする8者の共同企業体「南大阪広域下水道サービス」で、2026年2月19日に2市と業務委託契約を結んだ。この発表の副題も「下水道分野で全国初形態の水の官民連携(ウォーターPPP)レベル3.5事業の受託」である。

2市はそれぞれ10年以上、下水道の包括的民間委託を続けてきた。共同発注にあたって2市が挙げた課題は2つある。1つ目は、要求水準と契約書の条文をできる限りそろえることである。2つ目は、一方の市が契約を解除したときの扱いで、他方の市と受託者の両方が、他方の市との契約を解除できる権利を契約に書いた。事業期間の途中で他の団体が加わる「後乗り契約」も想定し、要求水準書に書いてある。

並行する第3の動き: 大阪広域水道企業団への統合(2025年4月)

大阪広域水道企業団への市町村の水道事業の統合は、4回に分けて進んだ

統合した時期団体
2017年4月四條畷市・太子町・千早赤阪村
2019年4月泉南市・阪南市・豊能町・能勢町・忠岡町・田尻町・岬町
2021年4月藤井寺市・大阪狭山市・熊取町・河南町
2025年4月岸和田市・八尾市・富田林市・柏原市・高石市

5市の統合で19市町村になり、企業団は29年度までに府内43市町村の過半数との統合を目指す。国の補助金は、企業団によれば5市の統合で計115億円になる見通しである泉大津市・箕面市・門真市とは、令和9年4月の統合に向けて検討と協議をしている大阪市と堺市は統合した団体に入っておらず、企業団と水道の基盤の強化に向けた連携協定を結んでいる

「万博契機」の正確な位置づけ

ここまでの3つ、つまり管路PFI・共同発注・広域統合は、万博のための事業ではない。万博と同じ時期に大阪府域で進んだ、別々の事業である。万博に向けた水道の整備は別にある。大阪市水道局は、開発者負担で夢洲地区の上水道の供給能力を1日あたり約18,000立方メートルに増強した。この能力は、万博と、令和12(2030)年頃の開業が見込まれる大阪IRの必要水量から決めたもので、施設整備は令和6年度末に完了している。「万博がきっかけ」ではなく、「万博と同時期に大阪で進んだ」と捉えるのが正確である。


ウォーターPPPのレベル区分

レベル3.5とレベル4の違いを、ガイドライン第3.0版の比較表から

「ウォーターPPP」は、令和5年6月2日の第19回民間資金等活用事業推進会議で決定されたPPP/PFI推進アクションプラン(令和5年改定版)で新たに定義され、令和8年改定版で呼び名が「水の官民連携」に変わったコンセッション方式(レベル4)と、管理・更新一体マネジメント方式(レベル3.5)の総称である

レベル3.5とレベル4の違い

ガイドライン第3.0版の比較表(図表1-3)から、主な行を写す。

項目レベル3.5(管理・更新一体マネジメント方式)レベル4(コンセッション方式)
事業期間原則10年。例外にするときは、管理者が理由を公表情報等に基づいて説明できる必要がある設定は自由(先行事例は20年以上が多い)
公共施設等運営権設定しない(民間委託)設定する
利用料金受託者は直接収受しない運営権者が自らの収入として直接収受する
維持管理と更新の原資委託料等。3条予算と4条予算の枠内で実施する直接収受する利用料金等。3条予算と4条予算の枠に縛られない実施も可能
プロフィットシェア事業期間中の民間提案で仕組みが発動した場合、費用縮減分を分配できる創意工夫等による費用縮減は運営権者に帰属する
PFI法に基づく職員派遣できない(公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律に基づく派遣は可能)できる(第79条に基づく退職派遣)

レベル3.5は、①長期契約(原則10年)、②性能発注、③維持管理と更新の一体マネジメント、④プロフィットシェアの4要件をすべて満たす民間委託で、運営権の設定を必要としないこと等から、レベル4よりも取り組みやすいと考えられるとされている。例外の事業期間の例には、5年間程度の更新支援型と10年間程度の更新実施型を組み合わせた、合計15年間程度の方式が挙がっている

レベル4の主な事例

自治体分野開始事業者
浜松市下水道(西遠処理区)2018年4月浜松ウォーターシンフォニー株式会社(ヴェオリア・JFEエンジ・オリックス・東急建設・須山建設グループが設立)
宮城県上下水道と工業用水(みやぎ型管理運営方式)2022年4月みずむすびマネジメントみやぎ(メタウォーターが議決権株式の51%を保有)

浜松市は西遠処理区で、2018年度からPFI法に基づく運営委託方式を国内で初めて導入し、20年間の事業を行っている対象は市内で最も大きい西遠処理区の3施設で、事業者の提案によれば20年間で約86億円のコスト縮減が見込まれる宮城県の運営会社は20年間で従来比337億円のコスト削減を目指しており、県によると、開始から2年間でコスト削減額が想定より4億円上振れした


令和9年度からの交付要件

汚水管の改築の国費支援の要件、決定済みとなる時点、公募までにかかる期間

自治体担当者にとって、本記事で最も重要な事実はこの一点である。

対象は汚水管(合流管を含む)の改築に係る国費支援で、社会資本整備総合交付金、防災・安全交付金、沖縄振興公共投資交付金、個別補助金(下水道事業費、下水道防災事業費)を想定している。処理場、ポンプ場、マンホールポンプ、送泥管の改築と、汚水管の新設は対象外で、緊急輸送道路と重要物流道路の下に埋設されている管路の耐震化は例外になる

公募までにかかる期間

ガイドラインは、レベル3.5の入札・公募資料等の公表までに2〜3年程度かかると見ている(3.2)。大阪狭山市と河内長野市の実際の流れは次のとおりである。

令和5年度 連携の協議を始める

隣接し、同じ時期に包括委託を始めた2市は、定期的に情報交換をしていた。2市とも包括委託を最大の範囲まで広げていたため、さらに広げるには広域連携が必要と判断し、連携の協議を始めた(年4回)。

令和6年度 導入可能性調査

国土交通省のモデル都市支援事業で導入可能性調査を行い、国土交通省も協議に加わった(年4回)。レベル3.5の要件を満たすように要求水準書を直した。

令和7年度 協定書の締結、公募、契約

共同発注の協定書を結び、公募資料の作成にはウォーターPPPの導入検討費用に対する補助事業を使った。令和7年9月に公募し、2026年2月19日に契約した。

令和8年度 事業開始

2026年4月1日から10年間の事業が始まった。2市の資料は「令和5年度連携検討開始から、約3年かけて事業公募を実現した」と書いている。

2市は、10年以上の包括委託の経験があったうえで、協議の開始から公募まで約3年だった。ガイドラインの2〜3年程度を令和9年度から引くと、導入検討を令和6年度から令和7年度には始めている計算になる。まだ導入可能性調査に入っていない自治体は、要件を満たすまでの汚水管の改築を国費なしで見込むのか、改築の予定を組み直すのかを、予算で比べることになる。レベル4は実施方針の公表で要件を満たすが、運営権を設定する前に議会の議決が要る(PFI法第19条第4項)。

国の推進体制

国土交通省は令和7年度に官民連携推進会議を6回開き、第6回(2026年2月20日)では大阪狭山市と河内長野市が共同発注を報告した

アクションプランは、令和13年度までの10年間で、水道100件、下水道100件、工業用水道25件の具体化を目標にしている。下水道は、この目標を令和8年度中に前倒しで達成するために取り組むとしている。ここでの「具体化」には、最終的に事業を実施するかどうかにかかわらず事業実施の検討を行った案件も含まれ、工業用水道の目標は、複数年度で複数業務を委託する官民連携手法も数える


浜松・宮城との比較

レベル4の先行2事例と、2市の共同発注の違い

項目浜松市宮城県大阪狭山市と河内長野市
方式レベル4(下水道のコンセッション)レベル4(上下水道と工業用水のコンセッション)レベル3.5(下水道の共同発注)
開始2018年4月2022年4月2026年4月
事業期間20年20年10年
対象西遠処理区の3施設県の上下水道と工業用水2市全域の下水道施設
契約の形市が運営権を設定県が運営権を設定2市が共同で選定し、各市が委託契約

浜松市と宮城県は、1つの団体がレベル4を選んだ。大阪府域では、大阪市が水道管路の更新をPFIで発注し、大阪狭山市と河内長野市が2市でレベル3.5を発注した。発注したのは別々の団体で、「大阪」が1つの方針で選んだものではない。

ガイドラインは、レベル3.5の後継としてレベル4を選択肢に検討してほしいとしている。一方で、レベル3.5を経ずにレベル4を実施することも可能としている。10年のレベル3.5から始めて次の契約でレベル4を検討する順番も、最初からレベル4を選ぶ順番も、どちらもガイドラインの考え方に沿う。


反対論と海外の再公営化

自治労の要請と市民団体の動き、パリとベルリンの再公営化を出典ごとに

ウォーターPPPには、国内に要件そのものへの反対があり、海外の再公営化も反対の根拠としてよく挙げられる。海外の事例は、出典によって評価が分かれている。

国内の主な批判

自治労の公営企業評議会は、2024年11月20日(水道部会)と12月3日(下水道部会)に国土交通省へ要請した。ウォーターPPPに関わる要請は次の2点である。

  • 水道部会は、自治体の関与が薄れ、人材や技術力の低下やサービス悪化の懸念があるとして、ガイドラインで強引な誘導をしないことと、補助金や交付金でウォーターPPPの導入を交付要件としないことを求めた
  • 下水道部会は、ウォーターPPPの導入を汚水管の改築更新に対する交付金の要件とすることは、自治体の実情にそぐわない民営化・委託化の推進に繋がる懸念があるとして、要件の撤廃を求めた

浜松市では「浜松市の水道民営化を考える市民ネットワーク」が、全国の団体とともに、ウォーターPPPを決めないと下水道管の補助金を減らす仕組みをやめるよう求める署名を集めており、2026年2月26日に1回目の署名を提出した浜松市長は2019年1月に、上水道へのコンセッションの導入延期を表明している。宮城県では、みやぎ型管理運営方式が、2021年の前回に続き2025年の知事選でも争点の一つになった

海外の再公営化事例

パリ(フランス)

日本政策投資銀行の足立慎一郎氏の寄稿は、次のように書いている。パリ市の水道は1985年以降、送配水をパリ市とヴェオリアとスエズが出資する第3セクターが、給水をヴェオリアとスエズの子会社が受け持っていた。2010年以降は業務を統合し、パリ市100%出資の公社「オー・ド・パリ」が実施している。再公営化の理由は、民間委託の期間中に料金が2倍以上になって市民の不満が高まったことと、市の専門知識やモニタリングのノウハウが失われつつあったことで、再公営化の際に料金を8%値下げした。ただし値上げは当初の契約の計算式に基づく予定どおりのもので、民間企業が運営したためとは言い切れない。再公営化では3,000万ユーロ(約37億4,000万円)の移転コストがかかり、その後もヴェオリアとスエズに一部の業務を委託している

一方、岸本聡子氏の論文は、再公営化後の調査で、7%と報告されていた営業利益が実際には15〜20%だったと分かったこと、株主配当や役員報酬の支払いが不要になったことなどで民営化時代より4000万ユーロを節約し、2011年に水道料金を8%下げたことを挙げている

ベルリン(ドイツ)

ベルリン州は、水道会社の持分を持っていたRWEから2012年に持分を6億1,800万ユーロで買い戻し、2013年にはヴェオリアの持分24.95%を5億9,000万ユーロで買い戻すことで合意した。同紙は、ヴェオリア分の価格は専門家や政治の予想を大きく下回ったと書き、2011年の住民投票の成功が一部売却を戻す圧力になったとしている

世界の件数

岸本聡子氏の論文は、2000年から2016年末までに、世界で少なくとも267件の水道再公営化を確認したと書く。日経BPの寄稿は、フランスでは2010〜15年に、民間委託から公共直営に戻した例が68件(人口で約60万人)、公共直営から民間委託に移した例も68件(約100万人)で、「再公営化が増えている」とは言えないとしている。

日本の制度との違い

日本のコンセッション方式は、施設の所有権を公共主体が持ったまま、施設の運営権を民間事業者に設定する(ガイドライン第3.0版1.1)。ベルリンは水道会社の持分を民間に売っていたので、戻すには持分の買い戻しが必要だった。パリについて日経BPの寄稿は、再公営化の前も後も水道事業の最終責任は公共が負っており、フランスには水道事業のすべてを民間企業に委ねる「完全な民営化」という概念は無いと書く。

同じ寄稿は、日本への示唆として、直営であれ民間委託であれ事業の透明性を確保する体制を整えることが最も重要で、民間委託は公共に適切なガバナンスやモニタリングの能力と体制があって機能すると書く。小規模自治体は、委託した民間企業の運営を単独でモニタリングするのが難しいとも書いている。大阪狭山市と河内長野市は、年次報告会での共同モニタリングと、一方の市が解除したときの契約解除権を、共同発注に入れている。


自治体が判断すべき7軸

対象の改築、発注の単位、委託の経験、モニタリング、解除、議会、公表の期限の7軸

ガイドライン第3.0版と、ここまでの事例から、判断の軸を7つに分ける。

各軸は、自団体の経営状況・施設状況・人材体制と照らし合わせて判断する。「やる/やらない」の二択ではなく、どの施設を対象に、単独か共同かで、どのレベルから始めるかを決める問題として捉えるのが実務的である。


まとめ:2026年度がターニングポイント

大阪府域では、大阪市の管路PFIと、大阪狭山市・河内長野市の広域型レベル3.5という、発注者も方式も違う2つの「全国初」が動いた。一方、令和9年度(2027年度)からは、汚水管の改築の国費支援にウォーターPPP導入の決定が要件になる。レベル3.5では、決定済みとなる募集要項等の公表までに2〜3年程度かかる。

2市は、10年以上の包括委託を経て、協議の開始から約3年で公募に至った。これから始める自治体がまず確かめるのは、令和9年度以降の改築計画に、対象の汚水管の改築があるかどうかである。

具体的な制度詳細(レベル3.5の4要件、対象になる改築、間に合わないときの道)は ウォーターPPP完全解説:令和9年度の交付要件とレベル3.5への自治体準備ガイド を参照。本記事はその上で、大阪府域の事例という「地域・時系列」の視点を加えるものである。

次にやること

この記事を読んだあと、その週のうちに動かせる順に並べる。

やることどこで目安
1令和9年度以降の改築計画に、対象の汚水管の改築があるかを確かめる(処理場・ポンプ場の改築、汚水管の新設は対象外。緊急輸送道路と重要物流道路の下の管路の耐震化は例外)庁内の下水道の計画担当。迷ったら都道府県の下水道担当課か国交省半日
2管路施設の情報がGISのデータベースで管理されているかを確かめる(ウォーターPPPとは別建ての交付要件)庁内の下水道台帳担当半日
3令和9年度の汚水管改築の予定額を出す。交付金が無い場合にいくら足りないかを数える予算担当1週間
41〜3を持って、レベル3.5で公募まで走るか、レベル4に切り替えるか、近隣と共同で発注するか、令和10年度以降に回すかを決める部内の意思決定
5共同発注を考えるなら、大阪狭山市と河内長野市の資料(協定書、要求水準の統一、契約解除権)を読んだうえで、近隣自治体に声をかける近隣自治体
6走ると決めたらサウンディングを先に打つ民間事業者2〜3か月

1と2は、この記事を読んだ人が今日できる。1で対象の改築が無いと分かれば、以降は不要になる。


この記事で使った統計の出典

  1. 1内閣府「PPP/PFI推進アクションプラン(令和8年改定版)」(令和8年6月11日) 出典を開く
  2. 2国土交通省「下水道分野における「水の官民連携」ガイドライン第3.0版【レベル3.5基礎編】」3.7(2026年4月) 出典を開く
  3. 3国土交通省「下水道分野における「水の官民連携」ガイドライン第3.0版【レベル3.5基礎編】」3.2(2026年4月) 出典を開く
  4. 4大阪市水道局「大阪市水道基幹管路耐震化PFI事業の概要について」(2025年4月9日) 出典を開く
  5. 5大阪広域水道企業団「府域水道事業の広域化について(取組)」(2026年8月18日更新) 出典を開く
  6. 6株式会社クボタ「大阪市水道局から「大阪市水道基幹管路耐震化PFI事業」を受注」(2024年4月17日) 出典を開く
  7. 7株式会社栗本鐵工所「大阪市水道局から「大阪市水道基幹管路耐震化PFI事業」を受注 ~水道基幹管路の更新に、PFI方式を全国初導入~について」(2024年4月22日) 出典を開く
  8. 8大阪狭山市・河内長野市「ウォーターPPPレベル3.5更新実施型共同発注について」(令和7年度第6回水分野のPPP/PFI(官民連携)推進会議 資料6)(2026年2月20日) 出典を開く
  9. 9積水化学工業株式会社「大阪狭山市・河内長野市の共同発注案件受託について」(2026年2月20日) 出典を開く
  10. 10日本経済新聞「大阪府の水道統合、八尾市など5市が合流 合理化進める」(2024年11月21日) 出典を開く
  11. 11大阪広域水道企業団「3団体(泉大津市・箕面市・門真市)との水道事業の統合に向けての検討、協議について」(2026年8月10日更新) 出典を開く
  12. 12大阪市水道局「夢洲地区における水道整備について」(2025年5月21日) 出典を開く
  13. 13内閣府「水の官民連携(ウォーターPPP)」(2026年9月14日取得) 出典を開く
  14. 14国土交通省「下水道分野における「水の官民連携」ガイドライン第3.0版【レベル3.5基礎編】」1.1(2026年4月) 出典を開く
  15. 15国土交通省「下水道分野における「水の官民連携」ガイドライン第3.0版【レベル3.5基礎編】」1.2、2.1(2026年4月) 出典を開く
  16. 16浜松市「浜松市上下水道事業における官民連携の取り組み」(2026年4月1日更新) 出典を開く
  17. 17浜松市「浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業」(2026年9月14日取得) 出典を開く
  18. 18河北新報「宮城県知事選挙で再び争点「水道みやぎ」導入の経緯って?<かほQチェック>」(2025年10月18日) 出典を開く
  19. 19国土交通省「下水道分野における「水の官民連携」ガイドライン第3.0版【レベル3.5基礎編】」3.8(2026年4月) 出典を開く
  20. 20国土交通省「令和7年度 水分野のPPP/PFI(官民連携)推進会議(官民連携推進会議)」(2026年9月14日取得) 出典を開く
  21. 21国土交通省「下水道分野における「水の官民連携」ガイドライン第3.0版【レベル3.5基礎編】」1.1、3.2(2026年4月) 出典を開く
  22. 22全日本自治団体労働組合「国土交通省に2025年度第2次要請行動~水道・下水道事業の基盤と災害対応の強化を要請~【公営企業評議会】」(2024年12月18日) 出典を開く
  23. 23浜松市の水道民営化を考える市民ネットワーク「署名提出院内集会」(2026年3月3日) 出典を開く
  24. 24日経BP 新・公民連携最前線「フランス・パリ市の水道事業、「再公営化」の真実」(2019年3月6日) 出典を開く
  25. 25日経BP 新・公民連携最前線「フランス・パリ市の水道事業、「再公営化」の真実」(全5ページ)(2019年3月6日) 出典を開く
  26. 26自治体問題研究所「水と人権 なぜ世界で多くの都市で水道再公営化が起きているのか」(岸本聡子、『住民と自治』2019年1月号)(2019年1月19日) 出典を開く
  27. 27Berliner Zeitung「Berliner Wasserbetriebe BWB: Berlin kauft Wasser zurück」(2013年9月10日) 出典を開く

参考文献

この記事を共有・引用する

記事を庁内資料・議会・勉強会・研究で引用するときは、記事名・公共0区・URLを明記してください。 引用・転載の案内

訂正履歴

  1. 令和9年度からの交付要件を「方針(見込み)」「実施時期・水準は確定事項ではない」と書いていましたが、要件はアクションプランとガイドラインに書かれています。

    訂正前
    令和9年度以降、汚水管改築の社会資本整備総合交付金にウォーターPPP導入決定を必須化する方針(現時点で実施時期・水準は確定事項ではない)/交付要綱に追加される方針/自団体が「一定規模以上」の対象に当たるかを確かめる/可能性調査6〜12か月、議会説明6〜12か月、公募・契約12〜18か月で、2026年度中に検討を始めないと事業開始が間に合わない/令和5年度補正予算で17自治体が可能性調査等を実施済み
    訂正後
    汚水管の改築に係る国費支援に関して、緊急輸送道路等の下の汚水管の耐震化を除き、ウォーターPPP導入を決定済みであることを令和9年度以降に要件化する(アクションプラン令和8年改定版、ガイドライン第3.0版3.7)。レベル3.5では募集要項等の公表で決定済みとなり、公表までに2〜3年程度かかる(同3.2)。対象は施設の種類で決まり、規模の限定は無い(同3.8)。工程は大阪狭山市と河内長野市の実際の流れに置き換えた

    誤った理由 出典にしていた国土交通省の資料は2023年の「下水道分野におけるウォーターPPP 管理・更新一体マネジメント方式(レベル3.5)の考え方」で、記事に書いた資料名と年が違い、中身も「令和9年度以降に要件化」でした。交付要綱の文として載せていた一文は、その文言の資料を確かめられませんでした。工程の月数と17自治体は出典が無く、外しました。要件を満たす時点は事業開始ではなく、募集要項等の公表です。

  2. 大阪の2つの「全国初」について、誰が全国初と言っているか、構成企業、受託者、金額、人口を直しました。

    訂正前
    大阪市水道局が「水道基幹管路の更新にPFI方式を全国で初めて導入」と公表/構成企業に「日水コン・ヴェオリア・ジェネッツ」/南海トラフ巨大地震対策を約5年前倒し/共同発注は下水道分野での複数自治体共同発注として国内初/受託JVは藤野興業代表、積水化学・管清工業・日水コン他8者/契約金額は公開時点未取得/人口10万人前後の中規模自治体/ここから先の単価と金額は、この記事が置いた前提である
    訂正後
    「全国初導入」は受注したクボタと栗本鐵工所の発表で、大阪市のページと資料には書かれていない。構成企業の最後はヴェオリア・ジェネッツ株式会社で1社。前倒しは大規模地震対策で5年程度。共同発注は2市が「日本初の広域型ウォーターPPPレベル3.5公募」と説明し、受託者は藤野興業株式会社を代表企業とする8者の共同企業体。発注金額は約2,016百万円(税抜き、3条予算のみ)。人口は大阪狭山市5.7万人、河内長野市9.7万人

    誤った理由 大阪市水道局の概要ページと資料、クボタと栗本鐵工所と積水化学工業の発表、国土交通省の官民連携推進会議で2市が出した資料で確かめました。節の先頭にあった「単価と金額はこの記事が置いた前提」という断り書きは、この節の金額がすべて公表された数字なので外しました。

  3. 大阪広域水道企業団への統合と、夢洲の水道整備の書き方を、出典の字面に合わせました。

    訂正前
    5市が統合参加(国庫補助115億円を活用、日本経済新聞2024年1月)/2029年度目標は府内43市町村の過半数(22市町村以上)/夢洲地区への水道整備(1日最大1万8,000立方メートル供給能力)が万博開催に直接ひもづく整備
    訂正後
    国の補助金は5市の統合で計115億円になる見通し(日本経済新聞、2024年11月21日)。企業団は29年度までに府内43市町村の過半数との統合を目指す。夢洲地区の上水道の供給能力は1日あたり約18,000立方メートルで、万博と大阪IRの必要水量から決めた

    誤った理由 日本経済新聞の記事の日付は2024年11月21日で、115億円は企業団の説明による見通しでした。22市町村以上は記事の計算で、出典にありません。夢洲の整備は大阪IRの開業も見込んだもので、大阪市水道局は「最大」とは書いていません。

  4. ウォーターPPPの定義と、レベル3.5とレベル4の比較表を、ガイドライン第3.0版に合わせました。

    訂正前
    コンセッション方式への段階的移行を目的とする官民連携方式の総称/契約期間はレベル3.5が原則10年(7〜15年も可)、レベル4が20年程度/自治体の関与は強と弱/想定する自治体規模は中小〜中堅と中核市以上(現状)
    訂正後
    コンセッション方式(レベル4)と管理・更新一体マネジメント方式(レベル3.5)の総称。レベル3.5の事業期間は原則10年で、例外は理由を説明できる場合。レベル4は設定が自由で、先行事例は20年以上が多い。比較表は、ガイドラインの表にある運営権、利用料金、財源、プロフィットシェア、職員派遣の行にした

    誤った理由 ガイドライン第3.0版の1.1〜1.3と2.1で確かめました。「7〜15年も可」と、自治体の関与と想定規模の行は出典に無いので外しました。

  5. 浜松市と宮城県の事業者と成果の書き方を直しました。

    訂正前
    浜松市は国内で初の下水道コンセッション導入、事業期間20年(〜2038年3月末)、浜松ウォーターシンフォニー(ヴェオリア・ジャパン代表)/宮城県は2024年度は目標超過を達成/反対市民ネットワーク(2018年設立)が継続活動中/共同発注は段階移行のため抵抗少
    訂正後
    浜松市は2018年度から西遠処理区で運営委託方式を国内で初めて導入し、20年間の事業を行っている。事業者はヴェオリア・JFEエンジ・オリックス・東急建設・須山建設グループが設立した浜松ウォーターシンフォニー株式会社。宮城県は、県によると開始から2年間でコスト削減額が想定より4億円上振れした(河北新報)

    誤った理由 「〜2038年3月末」は開始年月から計算した値で、出典にありません。「2024年度は目標超過」は出典の字面と違いました。共同発注の「段階移行のため抵抗少」は出典が無いので外しました。

  6. 海外の再公営化について、出典に無い数字と、出典と逆の評価を直しました。

    訂正前
    パリは2008年までに水道料金が174%上昇、利益の過少報告も発覚(日経BP)、配当・役員報酬廃止で年4,000万ユーロ節約/ベルリンは住民投票の結果、再公営化を決定し、株を約854億円と約815億円で買い取り、出口コストが予想を大幅に上回った/2000年〜2015年に世界で少なくとも180件(フランス49件、アメリカ59件)
    訂正後
    日経BPの寄稿は、パリの料金は民間委託の期間中に2倍以上になったが契約の計算式どおりで、再公営化で8%値下げし、3,000万ユーロの移転コストがかかったと書く。過少報告と4000万ユーロの節約は自治体問題研究所の論文にある。ベルリンは2012年にRWE、2013年にヴェオリアの持分を、6億1,800万ユーロと5億9,000万ユーロで買い戻し、ヴェオリア分は予想を大きく下回った(Berliner Zeitung)。世界の件数は2000年〜2016年末に少なくとも267件(自治体問題研究所の論文)

    誤った理由 日経BPの記事には174%、過少報告、4,000万ユーロが無く、フランスでは再公営化と逆方向の移行が2010〜15年に68件ずつで「トレンドとは言えない」とする寄稿でした。ベルリンの円換算は出典に無く、住民投票は一部売却を戻す圧力になったもので、再公営化を決めた投票ではありません。自治労の要請に無い論点(中小自治体のモニタリング能力)と、7軸の出典の無い数字(人口5万人以下、2030〜40年代の費用ピーク)と「財政審建議等に基づく」という記述も外しました。

  7. 「全国初」の数え方が記事の中で揃っていませんでした。大阪府域の広域統合は全国初ではないため、2つに統一しました。

    訂正前
    大阪で「全国初」が3つ動いた
    訂正後
    大阪で「全国初」が2つ動き、これとは別に府域の広域統合が進んだ

    誤った理由 2026年5月29日に題名と見出しを2つへ直しましたが、記事の要約・Threads投稿文・まとめと、英語版の本文・結論に3つのままの記述が残っていました。あわせて2点を直しています。1点目、「万博契機」の節が夢洲地区への水道整備を3つの中に数えたうえで3つの外にも置いており、文の中で食い違っていました。夢洲整備はこの節の3つとは別の事業です。2点目、冒頭で管路PFIを下水道分野と書いていましたが、管路PFIは水道、複数自治体の共同発注が下水道です。

ご自身の案件で確認すること

  • 自団体は、令和9年度の交付申請までに募集要項等を公表できる見込みがあるか?
  • レベル3.5とレベル4、単独発注と共同発注のどれが、自団体の規模と人材体制に合うか?
  • 再公営化の事例を読むとき、料金の変化を契約の計算式や投資の中身と分けて見ているか?長期契約のモニタリングと解除の条項をどう設計するか?

YOUR PROJECT

一般論から、個別の条件へ。

対象施設や公募条件に合わせて、調査・方針整理・対話・提案準備をご相談いただけます。初回は状況と対応範囲を確認し、個別業務は事前にお見積もりします。

目次

サイトの動作に必要な機能は常に有効です。任意のCookieは、いつでもこの画面で変更できます。

詳しく見る

記事を検索する

知りたい言葉を入力してください。複数の言葉はスペースで区切れます。

記事の題名・要点・本文全体から検索します。

一次資料用語集よくある質問