2026年度スモールコンセッション形成推進事業の全体像
国交省が7自治体を選定し、専門家を派遣して事業化を支援する制度の概要と費用負担構造
選定自治体
7
2026年度
古民家案件
4/7
構造的偏重
人口レンジ
5,600〜52万
規模を問わない
スモールコンセッション形成推進事業は、遊休公的不動産の活用を検討する自治体に対し、国が選定した専門家を派遣して伴走支援を行う制度である。2026年度は7つの自治体が選定され、エリアビジョンの検討から施設現況調査まで、事業化の初期段階を専門家が支援する。
事業の流れは以下の通りである。
公募(4〜5月)
国交省が専門家候補を公募。コンサルティングファーム・まちづくり会社・一般社団法人など、多様な主体が応募可能。
選定
専門家が担当する自治体と案件に応募し、審査を経て選定される。施設特性と専門家の強みのマッチングが評価の鍵。
伴走支援(6月〜翌年2月)
エリアビジョン検討・施設現況調査など、事業化の初期段階を専門家が伴走支援する。
成果報告会(翌年2月)
翌年2月に成果を発表。ここで得られた知見が次年度の公募への参入者増加につながる。
2026年度のスモールコンセッション形成推進事業では、2025年度(前年度)に続き2年連続の公募が実施された。前年度の選定自治体・専門家の実績が、2026年度公募への参入者の増加につながっている。
スモールコンセッションとは?
制度の基本的な仕組み・対象施設・参入方法を解説
7自治体の事例詳細
真鶴町・安城市・姫路市・奈良市・池田町・下田市・長洲町の対象施設・選定専門家・設計意図
出典を示していない収支試算の単価・金額は、説明用に仮定した数値であり、統計に基づく相場ではない。事業計画を作る際は、対象施設の状態や立地、事業内容に応じた見積もりと実績を用いる。出典を示した統計や事例の金額は、この仮定とは区別して参照する。
以下が2026年度に選定された7自治体と、それぞれの対象施設・選定専門家の一覧である。
| 自治体 | 人口 | 対象施設 | 施設類型 | 選定専門家 |
|---|---|---|---|---|
| 真鶴町(神奈川県) | 約6,000 | 旧民俗資料館 | 古民家 | エンジョイワークス |
| 安城市(愛知県) | 約19万 | 旧神谷家住宅 | 古民家(史跡公園内) | デロイトトーマツ |
| 姫路市(兵庫県) | 約52万 | 旧濱本家住宅 | 古民家 | 阪急CM |
| 奈良市(奈良県) | 約34万 | 旧柳生藩家老屋敷 | 古民家(文化財) | PwC |
| 池田町(北海道) | 約5,600 | 旧高島小学校+旧医院+旧住宅 | 複合(廃校含む) | 一般社団法人エリアクラフト北海道+北海道博報堂 |
| 下田市(静岡県) | 約1.8万 | 旧市役所庁舎 | 旧庁舎 | 建設技術研究所 |
| 長洲町(熊本県) | 約1.5万 | 旧長洲中学校 | 廃校 | 建設技術研究所 |
真鶴町(神奈川県)
港町の古民家をまちづくり会社と再生
人口約6,000人の小さな港町。対象は旧民俗資料館(古民家)である。
エンジョイワークスが専門家に選定された。同社は、クラウドファンディングを活用した不動産リノベーション(ファン投資型)に強みを持つまちづくり会社だ。「シェア型別荘」「ゲストハウス」「コワーキングスペース」など、小規模古民家の収益化モデルを多数手がけている。
この事例を参考に支援事業者を選ぶ際は、小規模施設の活用実績や地域との協働、資金調達に関する経験を確認する。企業の規模だけで支援内容を判断せず、対象施設で必要な業務を整理して比較する。
安城市(愛知県)
史跡公園内の古民家に大手コンサルが入る理由
人口約19万人の中核市。対象は史跡公園内に位置する旧神谷家住宅(古民家)である。
デロイトトーマツが専門家に選定された。
なぜデロイトトーマツか:史跡公園という法的制約が最大のポイントだ。史跡指定地では文化財保護法と都市計画法の交差点に位置する複雑な法的論点が生じる。収益事業を導入しながら史跡としての価値を毀損しないスキーム設計には、文化財活用と官民連携の両方に精通したアドバイザリーが不可欠である。大手コンサルティングファームの法的・制度的リスク管理能力が求められる案件であり、デロイトトーマツの選定はその要請に応えたものだ。
姫路市(兵庫県)
城下町の古民家を関西圏から支援
人口約52万人の中核市(姫路城で有名)。対象は旧濱本家住宅(古民家)である。
阪急CM(コンストラクション・マネジメント)が専門家に選定された。同社はPPP/PFI事業の発注者支援(コンストラクション・マネジメント)を専門とする会社であり、関西圏での官民連携事業に強い。
なぜ阪急CMか:姫路市は城下町という観光資源を持ち、古民家の活用方向としては観光・宿泊・飲食が有力候補となる。同市のような中核市では、事業化の際に「改修施工の品質管理」と「事業者選定の透明性確保」が重要になる。CM(コンストラクション・マネジメント)のノウハウを持つ阪急CMは、これらを一体的にサポートできる稀有な存在だ。
奈良市(奈良県)
文化財古民家にPwCが入る理由
人口約34万人の中核市。対象は旧柳生藩家老屋敷(文化財指定の古民家)である。
PwCが専門家に選定された。
なぜPwCか:文化財指定を受けた建物は、収益化の手法が根本的に制約される。通常の改修・用途変更が文化財保護法の制限を受けるため、「何ができて何ができないか」の法的精査、国・県・市の文化財担当部局との調整、そして収益性確保の代替手法の設計が複雑に絡み合う。奈良市という歴史都市における文化財活用は、国内でも最高難度の案件の一つであり、国際的な大規模コンサルティングファームの法的・財務的知見が不可欠だ。文化財として保全しながら民間の創意工夫を活かす収益モデルの設計。これがPwCに期待される役割である。
池田町(北海道)
一般社団法人が大手を抑えて採択された事例
人口約5,600人の農村小都市。旧高島小学校(廃校)+旧医院+旧住宅の3施設を一体的に活用する複合型案件である。
一般社団法人エリアクラフト北海道+北海道博報堂のコンソーシアム が専門家として選定された。
なぜエリアクラフト北海道+北海道博報堂か:池田町は北海道の農村地帯に位置する小都市であり、大手東京コンサルが入っても地域の実情とのギャップが生じやすい。一般社団法人が地元専門家として機能しつつ、北海道博報堂がコミュニケーション設計・住民合意形成を担うという二層構造のコンソーシアムは、地域の文脈を熟知した支援体制として評価された。
下田市(静岡県)
旧庁舎活用に建設コンサル大手
人口約1.8万人の温泉観光地。対象は旧市役所庁舎である。
建設技術研究所が専門家に選定された。
なぜ建設技術研究所か:旧庁舎の活用は、建物の構造・設備・耐震性の専門的評価が出発点となる。行政用途に合わせて建設された庁舎を民間活用可能な施設に転換するには、施設の現況調査→改修費算定→収支シミュレーションという工程で、建設技術のバックグラウンドが不可欠だ。下田市という温泉観光地では、庁舎跡地の活用方向として宿泊・飲食・コワーキングなどが候補となるが、いずれにしても建物の状態把握が先決である。
長洲町(熊本県)
廃校活用にも建設コンサルが有効
人口約1.5万人の農漁村自治体。対象は旧長洲中学校(廃校)である。
建設技術研究所が専門家に選定された(下田市と同一の専門家)。廃校活用についての詳細は廃校活用の全手順も参照されたい。
なぜ建設技術研究所か:廃校の活用可能性は「建物がどの程度使えるか」に直結する。耐震性の評価、アスベスト有無の確認、用途変更に必要な改修費の概算。これらは建設技術の専門家でないと正確に判断できない。活用の方向性を決める以前に、施設そのものの現況を正確に把握することが最初のステップであり、その専門性が建設コンサルに期待される役割だ。
専門家選定に見る3つの設計パターン
施設特性・事業フェーズ・地域密着性の3軸で専門家選定の構造を読む
7事例の専門家選定を俯瞰すると、施設特性・地域特性・事業フェーズによって選定基準が明確に異なることがわかる。
パターン1: 文化財・史跡案件
奈良市(文化財)・安城市(史跡公園内)の2件にはPwCとデロイトトーマツが選定。文化財保護法・都市計画法・建築基準法が交差する案件では、大手ファームのリーガル・制度調査能力が不可欠。
パターン2: 農村・小規模自治体案件
池田町(北海道農村)・真鶴町(港町)の2件には地域密着型の専門家が選定。人口数千人規模の自治体では、地元を知り継続的に対話できる専門家への需要が反映されている。
パターン3: 施設の物理評価が優先
下田市(旧庁舎)・長洲町(廃校)の2件には建設技術研究所が選定。活用方向を決める前に「施設がどの程度使えるか」を正確に評価する必要がある案件。
この3パターンの理解は、自治体が専門家派遣制度を活用する際の専門家タイプの選定基準として直接応用できる。
事例から読み取れる3つの傾向
古民家偏重・大手と社団法人の混在・地方小都市の参入
傾向1: 古民家活用が7件中4件を占める構造的理由
7自治体のうち4件(真鶴町・安城市・姫路市・奈良市)が古民家を対象としている。これは偶然ではなく、国交省の推進方策が「住民から寄付を受けた古民家等」を主要な対象として位置づけていることの反映だ。
なぜ古民家が多いのか。構造的な背景は3点ある。
① 規模の適切さ:古民家は建物規模が相対的に小さく(100〜300㎡程度)、改修費用も学校や庁舎より抑えやすい。事業費10億円未満というスモールコンセッションの定義にフィットしやすい。
② 収益化の多様性:観光・飲食・宿泊・宿泊体験など、地域資源と組み合わせた収益化の選択肢が多い。廃校の場合、利用者層の確保が難題になることが多いが、古民家は「歴史的建物」それ自体が観光コンテンツになる。
③ 寄付受け取り後の活用問題:住民から寄付を受けた古民家は、自治体が保有しながら有効活用できていないケースが多い。維持管理費だけがかかる「負の資産」を民間の力で資源化することは、寄付者(旧所有者)の意向にも沿う。
傾向2: 専門家は大手から社団法人まで
「スモール」は専門家にも当てはまる
選定された専門家の多様性は際立っている。PwC・デロイトトーマツという世界大手から、建設技術研究所(建設コンサル)、エンジョイワークス(まちづくり会社)、そして一般社団法人エリアクラフト北海道に至るまで、事業規模・法人形態・地域密着度が大きく異なる。
特に池田町事例が示すことは明確だ。一般社団法人でも、適切なコンソーシアムを組み、地域特性と施設特性に合った提案ができれば、大手コンサルを抑えて採択される。スモールコンセッションの「スモール」という概念は、事業費だけでなく、専門家の組織規模にも当てはまる。
傾向3: 人口規模を問わない参入
7自治体の人口は約5,600人(池田町)から約52万人(姫路市)まで幅広い。人口2万人未満の自治体が3件(真鶴町・池田町・長洲町)含まれている。
国が費用を負担する専門家派遣制度があることで、財政体力の小さい自治体でも「事業化の壁」を超えられる設計になっている。この制度なしでは、コンサルへの委託費すら捻出できない小規模自治体は最初から選択肢として除外されてしまう。
前提条件の比較
7事例の規模・立地・施設状態を比較し、自分の自治体に当てはめるための判断基準
7事例を「自分の自治体に当てはめられるか」判断するための前提条件を整理する。
| 前提条件 | 真鶴町 | 安城市 | 姫路市 | 奈良市 | 池田町 | 下田市 | 長洲町 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 人口 | 5,971 | 186,353 | 518,311 | 338,416 | 5,592 | 17,924 | 14,531 |
| 施設類型 | 古民家 | 古民家 | 古民家 | 古民家 | 複合 | 旧庁舎 | 廃校 |
| 文化財 | なし | あり | あり | あり | なし | なし | なし |
| 施設数 | 1 | 1 | 1 | 1 | 3 | 1 | 1 |
| 観光資源 | 港町 | 史跡公園 | 城下町 | 歴史都市 | 農村 | 温泉観光地 | 農漁村 |
| 専門家タイプ | まちづくり特化 | 大手コンサル | CM専門 | 大手コンサル | 地域コンソーシアム | 建設コンサル | 建設コンサル |
自分の自治体の条件と最も近い事例を特定し、その事例の専門家の支援内容と選定理由を参考にする。対象施設が文化財指定を受けているなら奈良市・安城市型の大手コンサルが必要になる可能性が高く、農村の小規模自治体なら池田町型の地域コンソーシアムを組むアプローチが有効だ。
「自分の自治体に当てはまるか」を判断する5つの問い
事例を読んだ後、自分の自治体への適用可能性を判断するために以下の問いを立てることを推奨する。
① 対象施設の法的制約は何か?
文化財保護法・史跡指定・建築基準法上の用途制限など、活用の自由度を左右する法的制約を最初に洗い出す。奈良市・安城市のように文化財指定がある場合、文化財や建築に関する専門知識を持つ支援者の関与を検討する。
② 改修費の概算はどの程度か?
建物の状態(耐震性・アスベスト・設備老朽度)と用途変更に必要な改修の範囲を把握する。下田市・長洲町のように建設コンサルの現況調査が出発点となるケースが多い。
③ 周辺に集客の核となる資源はあるか?
観光資源(温泉・城・港)があれば飲食・宿泊型の収益モデルが成立しやすい。池田町のような農村では、地域住民の生活拠点として活用する方向が現実的。
④ 民間事業者の参入意欲を確認できているか?
サウンディング調査(市場調査型の対話)を実施済みかどうか。未実施であれば、専門家派遣制度を活用してサウンディングの設計から始めることが有効。
⑤ 庁内の合意形成はどの段階まで進んでいるか?
首長の意向、議会への説明、関係部署(都市計画・財産管理・福祉等)との調整状況を確認する。庁内調整が進んでいないと、外部専門家が入っても事業が動かない。
この5問への回答が、どの専門家タイプが自治体に必要かの判断材料になる。
官民連携7手法を徹底比較
Park-PFI・スモールコンセッション・指定管理者制度など7手法の選び方
事例を読んで「うちでもできそうだ」と思った場合も、「うちには当てはまらない」と思った場合も、まず必要なのは自分の自治体の前提条件を正確に把握することである。特に「どの専門家タイプが自分の案件に合うか」の判断は、専門家派遣制度の活用可否にも直接かかわる。
一般社団法人 社会構想デザイン機構(ISVD)では、自治体ごとの前提条件を整理し、最適な官民連携手法を選定するための無料相談を実施している。
次にやること
事例を参考に専門家の支援を検討する際は、依頼する課題と範囲を整理する。
| 順 | 確認・検討すること | 担当・相談先 |
|---|---|---|
| 1 | 対象施設と種類や用途が近い事例を選ぶ | 記事の事例、公表資料 |
| 2 | 国交省のプラットフォームで情報を集める。会員登録は無料で、先進事例や補助金、専門家派遣の公募案内を受け取れる | プラットフォームの公式サイト |
| 3 | 事例の自治体に、専門家へ依頼した内容と支援の成果を聞く | 事例の自治体 |
| 4 | 候補施設の耐震診断とアスベスト調査の結果を確認する。未実施の場合は、調査の範囲と実施方法を検討する | 営繕担当 |
| 5 | 民間事業者の参入意向と必要な条件を聞く。単独での事業化が難しい場合は、近隣自治体との連携も検討する | サウンディング、近隣自治体 |
専門家派遣を利用する前に、需要調査、事業手法、募集条件など、支援を受けたい課題を整理する。事例の支援内容と成果を確認し、対象施設で必要な調査や助言を検討する。
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