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ARTICLE · 廃校活用

九州の廃校×福祉施設:長洲町・建設技術研究所の取組み

九州地域の廃校を福祉施設に転用する事例を分析。長洲町の旧長洲中学校スモールコンセッション事業、B&G財団「子ども第三の居場所」事業、九州の廃校×福祉転用パターンを整理。福祉施設への廃校活用が選ばれる構造的背景と、自治体が取るべきステップを解説。

この記事の要点

  • 長洲町は旧長洲中学校の跡地利活用にスモールコンセッションの手法を導入し、2025年度形成推進事業で選定された7自治体の一つ
  • B&G財団は長洲町に「子ども第三の居場所」を2025年4月に開設。助成額7,880万円で旧地域福祉センターを多世代交流拠点に改修
  • 全国の廃校の福祉施設・医療施設等への活用は735件(令和6年度調査)で、前回調査の774件を下回る。報酬の安定性と建物との物理的相性が、福祉転用が選ばれる構造的要因
対象読者・読む前に確認したいこと

こんな方に

  • 九州地域の自治体で廃校の福祉転用を検討している企画課・福祉課の担当者
  • 廃校を活用した福祉事業(児童福祉・障害福祉・高齢者福祉)への参入を検討している社会福祉法人・NPO
  • 廃校×福祉の事例を研究している研究者・コンサルタント

前提となる知識

  • 廃校活用の基本手順([廃校活用の全手順](/abandoned-school-how-to)を参照)
  • 廃校×福祉施設の収支モデル([廃校×福祉施設の収支モデル](/abandoned-school-welfare)を参照)
この記事の内容

九州の廃校の現状

九州7県の廃校発生状況と活用率。福祉施設への転用が選ばれる背景

全国の廃校→福祉・医療施設転用数(令和6年度調査)

735件

校舎と屋内運動場を別に数えた複数回答。前回調査は774件

B&G財団による長洲町「子ども第三の居場所」助成額

7,880万円

2025年度スモコン形成推進事業の選定数(長洲町含む)

7自治体

平成16年度から令和5年度までの廃校発生数は、都道府県別で熊本県282校、鹿児島県262校、大分県204校、福岡県191校、長崎県185校、宮崎県101校、佐賀県76校である。7県を足すと1,301校で、全国8,850校に対して14.7%にあたる(この足し算と割り算は本記事が行った)。

離島部や中山間地域で複式学級から統廃合に進む流れはあるが、その速さを地域別に示した資料は見つかっていない。全国の年度別発生数は2016年度以降279〜405校で、それ以前の年度(2004年度578校)より少ない。

廃校の母数。累計8,850校、現存7,612校、活用5,661校(74.4%)、未活用1,951校でうち用途未決定1,503校。
未活用の1,951校のうち、用途が決まっていないのは1,503校出典: 文部科学省 令和6年度「廃校施設活用状況実態調査」(令和6年5月1日現在)

全国の廃校の主な活用用途(校舎と屋内運動場を別に数えた複数回答)のうち、福祉施設・医療施設等は735件(7.1%)で、前回調査(令和3年5月1日現在)の774件を下回る。九州でも、児童福祉・障害福祉・高齢者福祉の各分野で廃校の転用事例が見られる。

九州における福祉ニーズの高さ

九州は全国的に見ても高齢化率が高い地域であり、特に熊本県・大分県・鹿児島県では高齢者福祉サービスの需要が逼迫している。同時に、子どもの貧困率も全国平均を上回る県が多く、児童福祉の充実も課題となっている。この「福祉ニーズの高さ」と「廃校ストックの存在」の組み合わせが、九州での廃校×福祉転用を後押ししている。


長洲町のスモールコンセッション

旧長洲中学校跡地の利活用計画と基本計画策定プロセス

旧長洲中学校跡地の利活用

長洲町(熊本県玉名郡)は、人口約15,000人の町である。有明海に面し、金魚の養殖と造船業で知られる。2025年度のスモールコンセッション形成推進事業で選定された7自治体の一つであり、旧長洲中学校の跡地利活用が対象事業となっている。

統合に伴う跡地活用の経緯

長洲町では令和6年4月に中学校の統合が行われ、旧長洲中学校の校舎・敷地が遊休化した。町は統合後速やかに跡地利活用の検討を開始し、「長洲中学校跡地の利活用に関する基本計画」の策定に着手している。の手法を活用することで、国の専門家派遣支援を受けながら、民間の創意工夫を最大限に活かした活用策を検討している。

建設技術研究所の関与

建設技術研究所は、公共施設マネジメント・PPP/PFI分野で豊富な実績を持つ総合コンサルタントであり、長洲町の跡地利活用計画策定の支援に関与している。大手コンサルタントが九州の小規模自治体を支援する構図は、スモールコンセッションの全国展開が進んでいることの表れである。

長洲町モデルの特徴

長洲町の事例は、以下の点で注目に値する。

  • 中学校跡地の活用: 廃校活用事例の多くは小学校であるが、中学校は体育館・プール・運動場が大規模であり、活用の選択肢が広い
  • 統合直後の迅速な対応: 統合から基本計画策定までのタイムラグを最小化し、施設の劣化が進む前に活用方針を決定する姿勢
  • 福祉と地域振興の融合: 後述の「子ども第三の居場所」事業と併せ、福祉機能を核とした地域拠点の形成を目指している

長洲町の「子ども第三の居場所」

B&G財団の助成事業。旧地域福祉センターの多世代交流拠点への改修

B&G財団の助成事業

B&G財団(ブルーシー・アンド・グリーンランド財団)は、「子ども第三の居場所」事業として全国に拠点を展開している。この事業は、生活困窮家庭等の子どもたちに、家庭(第一の居場所)・学校(第二の居場所)に次ぐ安全な居場所を提供するものである。

長洲町には2025年4月に「子ども第三の居場所」長洲拠点が開設され、助成額は7,880万円である。旧長洲町地域福祉センターを多世代交流拠点施設へと改修し、子どもから高齢者まで安心して集える場として整備された。

「子ども第三の居場所」の運営構造

長洲拠点の運営には以下の特徴がある。

  • 対象: 生活困窮などの家庭の小中学生を主対象としつつ、多世代交流の場としても機能
  • 運営主体: 一般社団法人SEPが運営を担い、地域の福祉ネットワークとの連携を確保
  • 施設改修: 旧地域福祉センターを改修し、学習支援スペース・調理スペース・交流スペースを整備

廃校→福祉施設転用の構造分析

735件の福祉・医療転用が選ばれる理由。報酬安定性・建物相性・供給不足の3軸

出典を示していない収支試算の単価・金額は、説明用に仮定した数値であり、統計に基づく相場ではない。事業計画を作る際は、対象施設の状態や立地、事業内容に応じた見積もりと実績を用いる。出典を示した統計や事例の金額は、この仮定とは区別して参照する。

なぜ福祉転用が選ばれるのか

令和6年度調査では、福祉施設・医療施設等への活用は735件(7.1%)で、全体から見れば少ない。それでも福祉転用を選ぶ事業者と自治体があるのには、3つの構造的理由がある。

理由1: 福祉報酬の安定性

障害福祉サービス・介護サービスは、報酬単価が国の制度で定められており、一定の稼働率があれば安定的な収入が見込める。観光施設やカフェのように市場リスクに左右されにくく、事業計画の見通しが立てやすい。

理由2: 建物との物理的相性

学校建築は「多数の人間が同時に滞在する施設」として設計されており、廊下の幅・教室の広さ・トイレの数・バリアフリー(エレベーターは別途必要)の観点から、福祉施設としての転用がしやすい。特に就労継続支援B型・生活介護・放課後等デイサービスは、教室の広さ・体育館の存在が活動スペースとして最適である。

理由3: 全国的な福祉施設の供給不足

障害福祉サービス・児童福祉サービスの需要に対して、施設の供給が追いついていない地域は全国に多い。廃校を活用することで、通常の新規開設(物件探し→賃貸契約→内装工事)よりも低コスト・短期間で施設を確保できる。

福祉転用と施設費

事例集の岩手県西和賀町の例では町が校舎を無償で、土地を有償で法人に貸し、新潟県長岡市の例では市が建物を無償で、土地を有償で法人に譲っている。施設費がどれだけ下がるかは、いまの賃料と、土地の貸付料や維持管理の負担の取り決めで決まる。

→ 廃校×福祉施設の詳細な収支モデルについては、廃校×福祉施設の収支モデルを参照されたい。


九州の廃校×福祉パターン

児童福祉型・障害福祉型・高齢者福祉型・多世代交流型の4パターン

九州地域の廃校×福祉事例を整理すると、以下の4パターンに分類できる。

パターン1: 児童福祉型

廃校を放課後等デイサービス・児童館・子育て支援施設として活用する。長洲町の「子ども第三の居場所」はこのパターンに含まれる。地域の子育て支援ニーズに応え、多世代交流の拠点としても機能する。

パターン2: 障害福祉型

就労継続支援B型・生活介護・就労移行支援など障害福祉サービスの事業所として活用する。教室を作業室・訓練室に転用し、体育館をレクリエーションスペースとして活用する。九州は農業が盛んな地域であり、「農業×障害福祉」(農福連携)のモデルが成立しやすい。

パターン3: 高齢者福祉型

デイサービス・地域密着型通所介護・小規模多機能居宅介護などの高齢者福祉施設として活用する。九州は高齢化率が高く、特に中山間地域では通所サービスの供給不足が深刻であるため、廃校を活用した高齢者福祉施設の需要は大きい。

パターン4: 多世代交流型

福祉施設の単一機能ではなく、児童・障害者・高齢者が交流する「多世代交流拠点」として活用する。長洲町の「子ども第三の居場所」が多世代交流の場として位置づけられているのは、このパターンの先行事例である。


検討のためのステップ

福祉転用を検討する自治体が確認すべき5つの前提条件

廃校の福祉転用を検討する九州地域の自治体が確認すべき前提条件を5つのステップで整理する。

ステップ1: 地域の福祉ニーズの把握

自治体の障害福祉計画・介護保険事業計画・子ども子育て支援計画を確認し、供給不足の福祉サービス類型を特定する。福祉ニーズのない地域での福祉転用は成立しない。

ステップ2: 建物の状態確認

廃校の建築年・耐震性能・設備の状態を確認する。1981年以前の建築は耐震補強が必要であり、改修費が大幅に増加する。スプリンクラー設置基準(延床面積275m²超の福祉施設)の該当有無も確認する。

ステップ3: 用途変更の手続き確認

学校施設から福祉施設への用途変更に伴う建築基準法・消防法の適合確認。排煙設備・非常用照明・避難経路の追加整備が必要な場合がある。

ステップ4: 事業者の募集・選定

社会福祉法人・NPO・民間事業者から活用提案を募集する。文部科学省「みんなの廃校プロジェクト」への掲載で全国の事業者にアプローチできる。

ステップ5: NIMBY問題への対応準備

福祉施設(特に障害者施設)の開設に対する近隣住民の反対(NIMBY)のリスクを事前に評価し、住民説明会・意見交換会の設計を行う。

→ 廃校活用の前提条件チェックリストについては、廃校活用事例47選を参照されたい。


廃校×福祉施設の収支モデル

就労継続支援B型を例に、令和8年6月からの基本報酬の区分、工賃の決まり、施設費の差の出し方、3つの事例を載せた。

スモールコンセッション事例7選

2026年度選定7自治体の対象施設・専門家・設計意図の分析

次にやること

廃校の活用方針と改修予算を検討する際は、次の事項を確認する。

順確認・検討すること担当・相談先
1活用に関心のある事業者を探す。希望する用途や必要な条件を聞き、活用方針の検討に反映するサウンディング、地元事業者
2耐震診断とアスベスト調査の結果を確認する。未実施の場合は、調査の範囲と実施方法を検討する営繕担当
3調査結果に基づいて改修費を見積もり、解体する場合の費用と比較する設計事務所
4財産処分に必要な手続きを確認する。国庫補助を受けた校舎は、活用方法と処分制限期間に応じて、文科省の承認申請または報告の要件を確認する教育委員会、文科省
5用途を公表する前に、卒業生や地域団体に活用方針を説明し、意見を聞く同窓会、自治会

用途を確定する前に事業者の関心と必要な条件を確認し、借り手の見込みを踏まえて活用方針を検討する。


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地域別

東北の廃校活用

少子化先進地域の挑戦と成功事例

この記事で使った統計の出典

  1. 1文部科学省 令和6年度「廃校施設活用状況実態調査」(令和6年5月1日現在)主な活用用途(2025) 出典を開く
  2. 2熊本日日新聞(2024年) 出典を開く
  3. 3国土交通省 スモールコンセッション形成推進事業(2025年) 出典を開く
  4. 4文部科学省 令和6年度「廃校施設活用状況実態調査」(令和6年5月1日現在)(2025) 出典を開く
  5. 5B&G財団(2025年) 出典を開く
  6. 6文部科学省「廃校活用事例集 未来につなごう みんなの廃校プロジェクト」(令和5年3月)(2023) 出典を開く

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記事を庁内資料・議会・勉強会・研究で引用するときは、記事名・公共0区(一般社団法人 社会構想デザイン機構)・URLを明記してください。

訂正の内容

  1. :九州の離島部・中山間地域で統廃合が加速しているという記述を、県別の廃校発生数に替えました。

    訂正前
    特に離島部(長崎県・鹿児島県)や中山間地域(熊本県・大分県)では、複式学級→統廃合→廃校というプロセスが加速している
    訂正後
    平成16年度から令和5年度までの廃校発生数は、都道府県別で熊本県282校、鹿児島県262校、大分県204校、福岡県191校、長崎県185校、宮崎県101校、佐賀県76校である

    理由 文部科学省 令和6年度「廃校施設活用状況実態調査」(令和6年5月1日現在)に県別の廃校発生数があります。加速の速さを地域別に示した資料は見つかっていません。

  2. :廃校の福祉施設への転用が「増加傾向」と書いていましたが、文部科学省の実態調査では前回調査の774件に対して今回735件で、増えていませんでした。

    訂正前
    福祉施設・医療施設として活用されているものは735件であり、近年増加傾向にある。この増加傾向は九州地域でも同様/見出し「なぜ福祉転用が増加しているのか」
    訂正後
    廃校の主な活用用途(複数回答)のうち、福祉施設・医療施設等は735件(7.1%)で、前回調査の774件を下回る/見出し「なぜ福祉転用が選ばれるのか」

    理由 文部科学省「令和6年度 廃校施設活用状況実態調査」の主な活用用途は、校舎と屋内運動場を別に数えた複数回答です。福祉施設・医療施設等は今回735件、参考として載っている前回調査(令和3年5月1日現在)は774件でした。障害者福祉施設は177件と176件です。前回と今回で対象の年度の範囲が違う(前回は平成14年度から令和2年度、今回は平成16年度から令和5年度)ため単純な増減は言えませんが、増えているとは読めません。九州で増えているという資料も示していませんでした。735件は用途の件数で、累計8,850校のうちの校数ではないため、書き方も直しました。3つの構造的理由は、福祉転用が選ばれる理由として残しています。

  3. :「次にやること」の表で、財産処分の手続きがいつも承認を要するように読める書き方でした。

    訂正前
    国庫補助を受けた校舎は文科省の承認が要る
    訂正後
    国庫補助を受けた校舎を処分制限期間内に学校以外に使うときは文科省の承認が要る(要件を満たせば報告で済む)

    理由 文部科学省の財産処分手続のページは、処分制限期間内に学校教育以外の用途で使うときに承認と国庫納付が要り、一定の要件を満たせば国庫納付をせず報告書の提出で済むとしています。報告で済む場合を落としていました。

  4. :廃校を福祉施設に使ったときの施設費の削減額を、公表された資料の数字のように書いていました。

    訂正前
    通常の賃貸物件では月額20〜40万円の施設賃借費がかかるが、廃校の無償または低額貸付により月額0〜5万円に抑えることができ、月15〜35万円のコスト削減が実現する/見出し「福祉転用の収支優位性」/関連記事の紹介文「施設費を月15〜35万円削減する構造」
    訂正後
    事例集の西和賀町の例では校舎を無償、土地を有償で貸し、長岡市の例では建物を無償、土地を有償で譲っている。施設費がどれだけ下がるかは、いまの賃料と土地の貸付料や維持管理の負担の取り決めで決まる/見出し「福祉転用と施設費」/紹介文は収支モデルの記事の今の中身に合わせた

    理由 月20〜40万円の賃料と月0〜5万円の廃校の施設費は、収支モデルの記事が置いた前提で、公表された資料の数字ではありませんでした。収支モデルの記事も同じ日に書き直し、施設費の差の出し方と、事例での建物と土地の扱いを載せています。

この記事の用語

スモールコンセッション
地方公共団体が所有する空き家・廃校等の遊休不動産について、民間の創意工夫を活かした小規模(事業費10億円未満程度)なPPP/PFI事業を行う取組み。2024年に国交省がプラットフォームを設立。

ご自身の案件で確認すること

  • 検討中の廃校は、福祉施設としての建築基準法上の用途変更に対応可能か?
  • 地域の福祉ニーズ(児童・障害・高齢者)のうち、最も供給不足な分野はどれか?
  • NIMBY問題(近隣住民の反対)のリスクをどう評価し、対策を設計するか?

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