九州の廃校の現状
九州7県の廃校発生状況と活用率。福祉施設への転用が選ばれる背景
全国の廃校→福祉・医療施設転用数(令和6年度調査)
735件
校舎と屋内運動場を別に数えた複数回答。前回調査は774件
B&G財団による長洲町「子ども第三の居場所」助成額
7,880万円
2025年度スモコン形成推進事業の選定数(長洲町含む)
7自治体
平成16年度から令和5年度までの廃校発生数は、都道府県別で熊本県282校、鹿児島県262校、大分県204校、福岡県191校、長崎県185校、宮崎県101校、佐賀県76校である。7県を足すと1,301校で、全国8,850校に対して14.7%にあたる(この足し算と割り算は本記事が行った)。
離島部や中山間地域で複式学級から統廃合に進む流れはあるが、その速さを地域別に示した資料は見つかっていない。全国の年度別発生数は2016年度以降279〜405校で、それ以前の年度(2004年度578校)より少ない。
全国の廃校の主な活用用途(校舎と屋内運動場を別に数えた複数回答)のうち、福祉施設・医療施設等は735件(7.1%)で、前回調査(令和3年5月1日現在)の774件を下回る。九州でも、児童福祉・障害福祉・高齢者福祉の各分野で廃校の転用事例が見られる。
九州における福祉ニーズの高さ
九州は全国的に見ても高齢化率が高い地域であり、特に熊本県・大分県・鹿児島県では高齢者福祉サービスの需要が逼迫している。同時に、子どもの貧困率も全国平均を上回る県が多く、児童福祉の充実も課題となっている。この「福祉ニーズの高さ」と「廃校ストックの存在」の組み合わせが、九州での廃校×福祉転用を後押ししている。
長洲町のスモールコンセッション
旧長洲中学校跡地の利活用計画と基本計画策定プロセス
旧長洲中学校跡地の利活用
長洲町(熊本県玉名郡)は、人口約15,000人の町である。有明海に面し、金魚の養殖と造船業で知られる。2025年度のスモールコンセッション形成推進事業で選定された7自治体の一つであり、旧長洲中学校の跡地利活用が対象事業となっている。
統合に伴う跡地活用の経緯
長洲町では令和6年4月に中学校の統合が行われ、旧長洲中学校の校舎・敷地が遊休化した。町は統合後速やかに跡地利活用の検討を開始し、「長洲中学校跡地の利活用に関する基本計画」の策定に着手している。スモールコンセッションの手法を活用することで、国の専門家派遣支援を受けながら、民間の創意工夫を最大限に活かした活用策を検討している。
建設技術研究所の関与
建設技術研究所は、公共施設マネジメント・PPP/PFI分野で豊富な実績を持つ総合コンサルタントであり、長洲町の跡地利活用計画策定の支援に関与している。大手コンサルタントが九州の小規模自治体を支援する構図は、スモールコンセッションの全国展開が進んでいることの表れである。
長洲町モデルの特徴
長洲町の事例は、以下の点で注目に値する。
- 中学校跡地の活用: 廃校活用事例の多くは小学校であるが、中学校は体育館・プール・運動場が大規模であり、活用の選択肢が広い
- 統合直後の迅速な対応: 統合から基本計画策定までのタイムラグを最小化し、施設の劣化が進む前に活用方針を決定する姿勢
- 福祉と地域振興の融合: 後述の「子ども第三の居場所」事業と併せ、福祉機能を核とした地域拠点の形成を目指している
長洲町の「子ども第三の居場所」
B&G財団の助成事業。旧地域福祉センターの多世代交流拠点への改修
B&G財団の助成事業
B&G財団(ブルーシー・アンド・グリーンランド財団)は、「子ども第三の居場所」事業として全国に拠点を展開している。この事業は、生活困窮家庭等の子どもたちに、家庭(第一の居場所)・学校(第二の居場所)に次ぐ安全な居場所を提供するものである。
長洲町には2025年4月に「子ども第三の居場所」長洲拠点が開設され、助成額は7,880万円である。旧長洲町地域福祉センターを多世代交流拠点施設へと改修し、子どもから高齢者まで安心して集える場として整備された。
「子ども第三の居場所」の運営構造
長洲拠点の運営には以下の特徴がある。
- 対象: 生活困窮などの家庭の小中学生を主対象としつつ、多世代交流の場としても機能
- 運営主体: 一般社団法人SEPが運営を担い、地域の福祉ネットワークとの連携を確保
- 施設改修: 旧地域福祉センターを改修し、学習支援スペース・調理スペース・交流スペースを整備
廃校→福祉施設転用の構造分析
735件の福祉・医療転用が選ばれる理由。報酬安定性・建物相性・供給不足の3軸
出典を示していない収支試算の単価・金額は、説明用に仮定した数値であり、統計に基づく相場ではない。事業計画を作る際は、対象施設の状態や立地、事業内容に応じた見積もりと実績を用いる。出典を示した統計や事例の金額は、この仮定とは区別して参照する。
なぜ福祉転用が選ばれるのか
令和6年度調査では、福祉施設・医療施設等への活用は735件(7.1%)で、全体から見れば少ない。それでも福祉転用を選ぶ事業者と自治体があるのには、3つの構造的理由がある。
理由1: 福祉報酬の安定性
障害福祉サービス・介護サービスは、報酬単価が国の制度で定められており、一定の稼働率があれば安定的な収入が見込める。観光施設やカフェのように市場リスクに左右されにくく、事業計画の見通しが立てやすい。
理由2: 建物との物理的相性
学校建築は「多数の人間が同時に滞在する施設」として設計されており、廊下の幅・教室の広さ・トイレの数・バリアフリー(エレベーターは別途必要)の観点から、福祉施設としての転用がしやすい。特に就労継続支援B型・生活介護・放課後等デイサービスは、教室の広さ・体育館の存在が活動スペースとして最適である。
理由3: 全国的な福祉施設の供給不足
障害福祉サービス・児童福祉サービスの需要に対して、施設の供給が追いついていない地域は全国に多い。廃校を活用することで、通常の新規開設(物件探し→賃貸契約→内装工事)よりも低コスト・短期間で施設を確保できる。
福祉転用と施設費
事例集の岩手県西和賀町の例では町が校舎を無償で、土地を有償で法人に貸し、新潟県長岡市の例では市が建物を無償で、土地を有償で法人に譲っている。施設費がどれだけ下がるかは、いまの賃料と、土地の貸付料や維持管理の負担の取り決めで決まる。
→ 廃校×福祉施設の詳細な収支モデルについては、廃校×福祉施設の収支モデルを参照されたい。
九州の廃校×福祉パターン
児童福祉型・障害福祉型・高齢者福祉型・多世代交流型の4パターン
九州地域の廃校×福祉事例を整理すると、以下の4パターンに分類できる。
パターン1: 児童福祉型
廃校を放課後等デイサービス・児童館・子育て支援施設として活用する。長洲町の「子ども第三の居場所」はこのパターンに含まれる。地域の子育て支援ニーズに応え、多世代交流の拠点としても機能する。
パターン2: 障害福祉型
就労継続支援B型・生活介護・就労移行支援など障害福祉サービスの事業所として活用する。教室を作業室・訓練室に転用し、体育館をレクリエーションスペースとして活用する。九州は農業が盛んな地域であり、「農業×障害福祉」(農福連携)のモデルが成立しやすい。
パターン3: 高齢者福祉型
デイサービス・地域密着型通所介護・小規模多機能居宅介護などの高齢者福祉施設として活用する。九州は高齢化率が高く、特に中山間地域では通所サービスの供給不足が深刻であるため、廃校を活用した高齢者福祉施設の需要は大きい。
パターン4: 多世代交流型
福祉施設の単一機能ではなく、児童・障害者・高齢者が交流する「多世代交流拠点」として活用する。長洲町の「子ども第三の居場所」が多世代交流の場として位置づけられているのは、このパターンの先行事例である。
検討のためのステップ
福祉転用を検討する自治体が確認すべき5つの前提条件
廃校の福祉転用を検討する九州地域の自治体が確認すべき前提条件を5つのステップで整理する。
ステップ1: 地域の福祉ニーズの把握
自治体の障害福祉計画・介護保険事業計画・子ども子育て支援計画を確認し、供給不足の福祉サービス類型を特定する。福祉ニーズのない地域での福祉転用は成立しない。
ステップ2: 建物の状態確認
廃校の建築年・耐震性能・設備の状態を確認する。1981年以前の建築は耐震補強が必要であり、改修費が大幅に増加する。スプリンクラー設置基準(延床面積275m²超の福祉施設)の該当有無も確認する。
ステップ3: 用途変更の手続き確認
学校施設から福祉施設への用途変更に伴う建築基準法・消防法の適合確認。排煙設備・非常用照明・避難経路の追加整備が必要な場合がある。
ステップ4: 事業者の募集・選定
社会福祉法人・NPO・民間事業者から活用提案を募集する。文部科学省「みんなの廃校プロジェクト」への掲載で全国の事業者にアプローチできる。
ステップ5: NIMBY問題への対応準備
福祉施設(特に障害者施設)の開設に対する近隣住民の反対(NIMBY)のリスクを事前に評価し、住民説明会・意見交換会の設計を行う。
→ 廃校活用の前提条件チェックリストについては、廃校活用事例47選を参照されたい。
廃校×福祉施設の収支モデル
就労継続支援B型を例に、令和8年6月からの基本報酬の区分、工賃の決まり、施設費の差の出し方、3つの事例を載せた。
スモールコンセッション事例7選
2026年度選定7自治体の対象施設・専門家・設計意図の分析
次にやること
廃校の活用方針と改修予算を検討する際は、次の事項を確認する。
| 順 | 確認・検討すること | 担当・相談先 |
|---|---|---|
| 1 | 活用に関心のある事業者を探す。希望する用途や必要な条件を聞き、活用方針の検討に反映する | サウンディング、地元事業者 |
| 2 | 耐震診断とアスベスト調査の結果を確認する。未実施の場合は、調査の範囲と実施方法を検討する | 営繕担当 |
| 3 | 調査結果に基づいて改修費を見積もり、解体する場合の費用と比較する | 設計事務所 |
| 4 | 財産処分に必要な手続きを確認する。国庫補助を受けた校舎は、活用方法と処分制限期間に応じて、文科省の承認申請または報告の要件を確認する | 教育委員会、文科省 |
| 5 | 用途を公表する前に、卒業生や地域団体に活用方針を説明し、意見を聞く | 同窓会、自治会 |
用途を確定する前に事業者の関心と必要な条件を確認し、借り手の見込みを踏まえて活用方針を検討する。
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