VFM 簡易算定モデル徹底解説 — 内部検討段階で職員が PPP/PFI 導入可否を判断する手順
国土交通省が 2026 年 5 月に公表した VFM 簡易算定モデルマニュアルを徹底解説。VFM (Value For Money) の定義から Excel 算定モデルの 5 ステップ算定手順、旧モデル (平成 20 年) からの 3 変更点、4 アウトプットの解釈、利用時の限界まで網羅。外部コンサル委託前に自治体職員が内部判断するためのツールとしての位置付けを明示する。
ざっくり言うと
- VFM (Value For Money) = 「支払額に対する価値」 = 従来方式 PSC と PFI-LCC の差で計算
- 国交省 VFM 簡易算定モデル は 内部検討段階 で 自治体職員 が 自ら 入力 して 算定 する Excel ツール、外部コンサル委託前の判断材料
- 適用事業方式は BTO + BOT、指定管理者制度等の長期包括委託も対応
なぜ VFM 簡易算定モデルが重要か
公共施設の老朽化と財政制約を背景に、自治体は PPP/PFI 手法の導入を検討する場面が増えている。だが「自治体が自ら事業を実施するのと PFI 事業として実施するのとで、どちらが財政負担を抑えられるか」を定量的に判断するには、過去の事例実績に基づく計算が必要になる。
国土交通省は 2026 年 5 月、PPP/PFI 関連手引き類の一環として VFM 簡易算定モデルマニュアル を公表した。これは Excel ファイルベースの算定モデルで、自治体職員が外部コンサル委託前に内部で VFM を試算するためのツールである。
本記事では、マニュアルの内容を構造化して解説する。
VFM とは何か
Value For Money (VFM) は「支払に対して価値の高いサービスを供給する」という考え方である。PFI 事業における具体的な VFM は、次の差として計算される。
- PSC (Public Sector Comparator): 地方公共団体等が自ら事業を実施する場合の、事業期間を通じた公的財政負担額の現在価値
- PFI-LCC (PFI Life Cycle Cost): PFI 事業として実施する場合の、事業期間全体を通じた公的財政負担額の現在価値
PFI 事業の LCC が PSC を下回れば、PFI 事業の側に VFM があると評価される。VFM の有無を評価することが、公共施設整備等を PFI 事業として実施するかどうかの基本判断となる。
VFM を算定する 5 段階
国交省マニュアルは VFM 算定の使用機会を 5 段階に分けて整理している。
| 段階 | 主体 | 精緻化レベル |
|---|---|---|
| 内部検討段階 | 発注者内部の職員 | 簡易算定 |
| PPP/PFI 導入可能性調査段階 | アドバイザー (コンサル) | 簡易算定が多い |
| 特定事業選定段階 | アドバイザー | 内閣府「VFM ガイドライン」対象、精緻化 |
| 契約段階 | アドバイザー / 事業者提案 | 契約条件確定後、精緻化 |
| 事業評価段階 | 職員 / コンサル | 事後評価、VFM 算定例は少ない |
段階を経るごとに「確からしさ」が向上する。本マニュアルが対象とするのは 内部検討段階、つまり外部コンサル委託前に職員自身が VFM を試算する場面である。
平成 27 年 12 月に内閣府が示した「多様な PPP/PFI 手法導入を優先的に検討するための指針」の中の「④簡易な定量評価」での活用も想定されている。
算定モデルの 4 アウトプット
VFM 簡易算定モデルは次の 4 つのアウトプットを提示する。
- 地方公共団体等が自ら事業を実施する場合の将来収支推計 (PSC ベース)
- PFI 事業として実施する場合の将来収支推計 (PFI-LCC ベース)
- 当該事業における VFM (PSC と PFI-LCC の差)
- 事業費の削減率による感度分析
これにより、簡易な定量的根拠を持って PPP/PFI 導入可否の内部判断ができる。
適用事業範囲
VFM 簡易算定モデルは原則 PFI 法に基づく PFI 事業の VFM 評価を対象とする。事業方式 × 事業類型の組み合わせで対象範囲が定義されている。
| 事業方式 | サービス購入型 | 混合型 | 独立採算型 |
|---|---|---|---|
| BTO 方式 | ○ | ○ | × |
| BOT 方式 | ○ | ○ | × |
| BOO 方式 | × | × | × |
- BTO 方式 (Build-Transfer-Operate): 民間が施設を建設し、施設完成直後に地方公共団体等に所有権を移転、民間が維持管理と運営を行う方式
- BOT 方式 (Build-Operate-Transfer): SPC (特別目的会社) が施設を建設して維持管理と運営を行い、PFI 事業契約終了時点で地方公共団体等に所有権を移転する方式
- BOO 方式 (Build-Own-Operate): SPC が施設を建設・所有・運営し、契約終了時に解体撤去等 (事例ほとんどなし)
- RO 方式 (Rehabilitate-Operate): SPC が既存施設を改修した後、PFI 事業契約終了時点まで維持管理・運営を行う方式。VFM 算定上は BTO 方式で代替
また、本モデルの一部機能を活用すれば、指定管理者制度等の 長期包括委託 における事業収支の簡易評価も可能である (マニュアル第Ⅱ章 §6 参照)。
算定手順 5 ステップ
Step 1: 事業主体・事業方式・事業期間の入力
| 入力項目 | 選択肢 / 上限 |
|---|---|
| 事業主体 | 国 / 都道府県 / 市区町村 |
| 事業方式 | BTO 方式 / BOT 方式 |
| 施設整備期間 | 最大 10 年 |
| 維持管理・運営期間 | 最大 30 年 |
債務負担行為の上限が事業期間の最大値となる。国の場合は 30 年、地方公共団体の場合は制度上の上限はない。
Step 2: 費用・収入・資金調達条件等の入力
8 項目を順に入力する。
- 従来方式での費用 (PSC 側の費用)
- PFI 方式での費用
- 従来方式での収入
- PFI 方式での収入
- 資金調達条件
- 民間事業者の収支に係る基準値
- 現在価値割引率
- 税金
大半の項目には、過去の PFI 事業の事例等を参考にした 初期値 が設定されており、最低限の入力で算定できる構造。
Step 3: 期間按分比率等の入力
- 施設整備費等の期間按分比率
- 大規模修繕の実施年次と金額
Step 4: 計算の実行
入力した条件で計算を実行、4 アウトプット (PSC 推計 / PFI 推計 / VFM / 感度分析) を確認する。
Step 5: 感度分析の実行
事業費の削減率を変動させて VFM の感度を分析する。
旧モデル (平成 20 年度版) からの 3 変更点
- 入力項目の拡大: 利用者の検討進捗度合いに応じて、より精緻な VFM 計算ができるよう一部入力項目を詳細化
- 初期値のアップデートと参考値の提示: 過去の PFI 事業実績等に基づく初期値を再設定、最低限の入力でも官民連携事業導入の判断ができるように調整
- 対象事業の拡大: 旧版は PFI 法に基づく PFI 事業のみが対象だったが、新版は指定管理者制度等の 長期包括委託 についても事業収支等を算定し、従来方式とのコスト比較が可能に
算定結果の解釈と次のアクション
VFM が正値 (PFI 側が PSC を下回る) であれば、PPP/PFI 手法を選択する経済的根拠がある。ただし内部検討段階の簡易算定は確からしさが低いため、次の段階 (PPP/PFI 導入可能性調査) に進んで精緻化することが想定される。
VFM が負値 (PFI 側が PSC を上回る) または僅差の場合は、PPP/PFI 手法の導入を見送るか、別の事業方式 (混合型 / 独立採算型 / 長期包括委託) を検討する。
感度分析で事業費の削減率を変動させた結果、VFM の符号が頻繁に切り替わる場合は、初期値の確からしさに依存している状態。早期に外部アドバイザーを入れた精緻化が必要となる。
利用時の留意点と限界
国交省マニュアルは次の留意点を明示している。
- 多くの利用者向けに 経費発生時期・会計処理・税務処理等を簡略化・一般化 している。そのため特有の条件は反映できない場合がある
- 高度かつ詳細な条件設定を行いながら VFM 評価を精緻化したい場合は、国土交通省総合政策局官民連携政策課に連絡することで設計書とソースコードの提供を受けられる
- 商用等本来目的を逸脱する二次利用は認められない
自治体担当者の実務での使い方
公共施設等総合管理計画 / 個別施設計画 の中で具体的な施設について PPP/PFI 導入を検討する場面で、次の流れが想定される。
- 候補施設の概要 (整備期間 / 維持管理運営期間 / 想定費用) を整理
- VFM 簡易算定モデルに入力 (Step 1-3)
- 算定実行 (Step 4)
- 感度分析 (Step 5)
- 結果を内部報告書にまとめ、PPP/PFI 導入可能性調査の発注是非を判断
- 導入可能性調査を発注する場合、本モデルでの算定結果は仕様書に含める
民間事業者は自治体への提案前に、自治体側がどのような前提で VFM を見立てるかを推定するために本マニュアルを把握しておくと、提案資料の説得力が増す。
まとめ
国交省 VFM 簡易算定モデル は 内部検討段階 の 自治体職員 が 自ら 入力して算定する Excel ツールである。VFM = PSC − PFI-LCC の差で、PFI 側が PSC を下回れば VFM がある。適用事業方式は BTO + BOT (一部 長期包括委託も対応)、5 段階のうち精緻化レベルは「簡易算定」 = 外部コンサル委託前の内部判断材料。
新モデルは旧モデル (平成 20 年度版) から 3 変更点 (入力項目拡大 / 初期値アップデート / 対象事業拡大) で更新されている。利用時の限界 (特有条件反映不可 / 商用利用禁止) を理解した上で、次の段階 (導入可能性調査) への入り口として活用することが想定されている。
関連資料
- 一次情報アーカイブ: 国土交通省 PPP/PFI 手引き類 (2026 年 5 月公表)
- 関連手引き: VFM 簡易算定モデル (PDF + Excel) は同アーカイブの 06 番文書
- 関連記事: スモールコンセッションとは何か / 財政力指数で選ぶ官民連携手法